英雄の聖剣、お譲りします
木下望太郎
第1話 【英雄の聖剣、お譲りします】
ようこそようこそ、お客様。当武具店へお越しいただき、まことに――
はあ、「ごたくはいい」と? 「表に書いてあることは本当か」、と?
もちろん、もちろん。【英雄の聖剣、お譲りします】……少々、訳有りの品でございますがね。
しかし、でございますが……。失礼ながらお客様ご自身に、お買い上げいただくだけのものがお有りかどうか、判断致しかねるところでございますな。
いえいえ、お代金だとか、お若過ぎるといった話ではなく――そもそも見たところ、私自身とも
その剣を扱えるだけのものがお有りか否か。腕や経験が、というだけでは必ずしもなく……それ以上に、その血が。
ご存知ですかな。『聖剣は、英雄の血を持つ者にしか扱えない』。その剣から立ち昇る神気はあらゆる魔物を斬り裂き、同時にあらゆる人間を拒む。かつて神と契約せし古の英雄の血筋、その血なくば、柄を握ることすら不可能。それが聖剣、『
……いかがなさいました、お客様。お顔色が優れぬようで。大丈夫でございますか? もし、大丈夫でございますか?
――ああ、「問題ない」と。安心致しました。いえいえ、お察し致します。こう申しては失礼ですが、お客様はとてものこと、英雄の血を引く方には見えませ――はあ、「黙れ」と。いや、これはこれは失礼を。
しかし、まあ。お客様のようなお若い方でも、聖剣を求められるものなのですなあ。無理からぬこととも申せましょうか。『魔王』を殺すことのできる唯一の武器。人類の仇敵、魔物の
……また難しい顔をなさる。はは、そう気を落とされずに。いかがでございます、他の武器などお求めになっては。ご覧のとおり、ずらり並んだ棚にはぎっしり、多様な武具を取り揃えてございます。ただし当店は中古専門、新品は取り扱っておりませんがね。
どうです、剣の類もようございますが。一つ目先を変えて、魔導杖などご覧になられては? 「魔法の心得はない」? まあ、おいおい経験を積まれてみては――
……ほう。その杖を手に取られましたか。これはこれは、お眼が高い。聖剣を携えし英雄、彼と共に戦った魔導師が自ら設計し、愛用した逸品にございます。
「そんな大したものだったのか」、と? 「ただ、面白い構造だと思って。剣だろう、これは」――なんとなんと、お見それ致しました。そのとおりでございます。
魔導杖の上端、魔力のこもった輝石。そこから拳二つ分ほど下に、継ぎ目があるのがお分かりですかな。その継ぎ目の上と下、それぞれを握ってお引きくださいませ。それぞれ上と下へ、ゆっくりと。
――そら、細い剣身が顔を見せましたな。輝石のついた上部は柄、継ぎ目から下は鞘。いわゆる仕込み杖となっておるのですな。
しかし、おかしなものですなあ。自らの魔力を最大の武器とするはずの魔導師、それがなぜ、かような剣など仕込んでいるのか。いったいこれを使った者は、いかなる人物だったのか。どうです、気にはなりませんかな。
……ええ、ええ。存じ上げておりますとも。その方をこの私は、ようく。
これも何かの縁、一つお話致しましょうか。その杖の名は『
――その日その時、呪腕と呼ばれた魔導師は、自身の父親を破裂させて殺しました。英雄だけがそれを見ていたのです、黙って――。
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