第4話(後半) いろいろピンチ……?

 千影が監査委員会のほうへ戻ったあと、咲人と光莉の二人は新聞部の部室に戻った。


「あの……千影さん……いえ、千影様は、いったいなんと……?」


 恐る恐る訊ねてきたのは和香奈だった。


「とりあえず、俺から千影には、廃部にするだとか、生徒指導部にチクるのはいったんやめてほしいって頼んでおいた」

「てことは、廃部は無しっ⁉ 神っ……! ありがとう、高屋敷くん……!」


 和香奈の顔がパーッと明るくなる。


「いや、待て待て……いったんって言ったのは、このあとが大事だからだよ。即廃部じゃないけど、監査期間は二十日までだから、それまでに新聞部はきちんとした新聞を発行するって条件が課せられたんだ——」


 ——ということにしておく。


「そ、そっか……はぁ〜……」


 安堵のため息をついた和香奈だが、問題が先延ばしになっただけで、けして良かったとは言えない状況である。それでも二週間の猶予はある。この間に、きちんとした新聞を発行しなければならない。


 そうなると、次の問題は人員不足の解消だ。


「彩花先輩、この三人以外の部員は?」

「プラス、光莉ちゃんを入れたら四人ですね……」

「四人か……じゃあ、今月号の新聞の完成度はどれくらいですか?」

「えっと、全体的に二十パーセントくらいです。例年は、夏の大会に向けた運動部の特集記事を組んでたんですけど——」


 と、彩花は和香奈を見る。


「インタビューなら半分くらい。——真鳥先輩が写真を撮ってましたよね?」


 すると真鳥は、大事なKANONちゃんを見つめて、寂しそうに笑った。


「さっき消えた。というか、消された……」


 咲人は自分のしたことを思ったが、なんら後悔などない。むしろ「ざまぁ」だ。


「半分くらいはPCに移してるから……でも、それ以外は撮り直しかな〜……」


 真鳥はため息をついたが、それは撮り直してもらうよりほかはない。


 すると光莉が「はい」と手を挙げた。


「その消えちゃった写真はカメラ本体に保存してました? それともSDカードかな?」

「SDだけど、それがなに?」


 光莉はニコっと笑った。


「じゃあ、そのSDカード、うちに貸してください」

「いいけど、どうするの……?」

「完全にできるかはわかりませんが、写真データを復元するので」

「え⁉ そんなことできるの⁉」

「はい!」


 あっさりと答える光莉を見て、咲人は安心したように息を吐いた。


「そういうわけで、光莉もいったんは退部を取り下げてくれるみたいです」

「うん。うち、和香奈ちゃんにずっとお願いされてたし、さっきちーちゃんとも話して、新聞部の活動をやってみようかなと思って」

「ありがとう、光莉……!」


 と、和香奈がまた嬉しそうに表情を明るくした。

 咲人は、和香奈と同じように喜んでいる先輩二人を見て、そっと口を開く。


「それと、今回は俺も協力します。入部はしませんが」

「え? でも、いいんですか……?」

「高屋敷は私らのこと怒ってないの?」


 咲人は苦笑した。


「そりゃ怒ってますよ? だからお目付け役です。今日みたいなことを起こされちゃたまったもんじゃないですからね……。ま、乗りかかった船です。できるだけ協力します」


 真鳥も苦笑を浮かべ、彩花を見た。


 最後は部長に判断が託されたようだが、答えは一択しかない——

「……では、高屋敷くん、光莉ちゃん、よろしくお願いします!」


 ——とりあえず、潜入成功といったところだろうか。


 現段階で協力を申し出ることによって、一つ借りをつくることには成功したようだ。

 千影への口止めもあって、多少は恩を売ることができただろう。


 ——ただ、問題はここからだ。

 内側からは咲人と光莉が睨みをきかせ、外側からは監査委員の千影が睨みをきかせれば、とんでもない方向に向いていた部の方針を、なんとか軌道修正できるかもしれない。


 学校側も、まともな新聞なら発行を許可してくれるだろう。

 そうして、きちんと活動費が支給されれば、新聞部はこれ以上スキャンダルを狙うようなことはしてこないだろうし、三人の秘密は守られるはずだ。


 そのために、やらなければならないことが山ほどある。


「真鳥先輩、光莉が写真を復元したとして、俺が載るところだった一面はどうなりますか?」

「うぐっ……その言い方……。——ま、夏の大会に向けてって感じで、運動部のインタビューと写真を一面に持ってこられるよ」


「てことは、あとはインタビューの残りと、残った項目を消化するだけですか?」

「まあね。来週からテスト期間に入って部活は制限されちゃうけど、土、日、月曜の海の日の三連休を使えば、なんとかできそう」


「今月の発行はいつですか?」

「終業式の日、二十日だよ。十九日までに印刷が終わっていればいい」

「なるほど……」


 タイミングはバッチリだ。

 二十日に監査が終わるので、それまできちんと活動している様子を見せ、十九日に出来上がった記事を学校に提出。その後、二十日に発行できれば、監査委員会への報告内容については問題ない。


(新聞さえ発行できれば……ん?)


 ふと、咲人は和香奈を見た。彼女はなにか、不安そうな表情を浮かべている。

 咲人と同じように、和香奈の暗い表情に気づいた光莉が先に口を開いた。


「和香奈ちゃん、どうしたの? なにか心配事かな?」


 和香奈は暗い表情で俯いた。



「私たちが真面目に作った新聞、みんなに読んでもらえるかなって……」



 咲人は、あっと思った。


 おそらく和香奈だけでなく、新聞部全員が気にしているポイントはそこだ。

 せっかく作った新聞が読まれずに終わってしまうことだろう。

 それが悲しくて暴露系のネタに走ろうとしたのだろうが——


「……ううん、やっぱなんでもない。チャンスをもらったんだし、やらなきゃね!」


 和香奈は明るく振る舞ったが、そこの重要性に咲人と光莉は気づかされた気がした。

 けっきょく、読まれる新聞にしなければ、今回と同じことの繰り返しになってしまうかもしれない。


「そのあたりは光莉、どう思う?」

「見出しや内容、レイアウトの工夫次第でなんとか……とりあえず、今までの新聞のバックナンバーを読んでみたいかな」

「う、うん!」


 和香奈はそのあと、バックナンバーが収められたファイルを手当たり次第に持ってきた。光莉はそのファイルをパラパラとめくっていく。


「光莉……それ、読んでるの……?」


 まるで読んでないことに違和感を覚えたのか、和香奈は恐る恐る訊ねる。


「ううん、視てるの。ちょっと集中したいかなぁ——」


 光莉は手を止めず、真剣にファイルをめくり、次のファイルを手に取った。任せても大丈夫ということだろう。


「じゃあ、俺たちもやりましょうか?」


 そう言うと、彩花と真鳥がすぐに立ち上がる。


「今から運動部にインタビューに行くなら、私が——」

「カメラが必要なら私もついて行くよ」


 先輩二人がやる気を見せると、咲人は屈託のない微笑を向けた。


「今日のところは、光莉以外のメンバーで部室の掃除をしましょう。——ここ、空気が悪いんで」


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次回の更新が、いよいよ先行公開ラスト! 2月11日(日)です!


今度はお風呂で双子たちが「ツイントーーク」。

お湯のなかで千影が妄想しすぎて……!?


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