ツイントーーク!③ デートの前に二人で……
夜、『洋風ダイニング・カノン』から帰ってきたあと。
光莉と千影は、明日のことについて千影の部屋で作戦会議をすることになった。というのも、明日は予定通り、千影と咲人がデートすることに決まったのである。
「……で、どうしてうちがちーちゃんをお姫様抱っこしないといけないのかな?」
「れ、練習……。お姫様抱っこされたとき、変な顔にならないように……」
「そんな状況になるとは思えないんだけどなぁ……じゃなくて、これはどっちかって言うと咲人くんの練習で……じゃなくて、重いよっ!」
「重い⁉ え、嘘⁉ 今からダイエットしたほうがいい⁉」
「明日には間に合わないぃ〜……これはうちの筋肉量の問題で……あわっ!」
と、光莉はいよいよ耐えられなくなり千影をベッドに落とした。
バインと弾んだ千影は、あわわわと頬を押さえて慌てる。
「咲人くんに重いって思われたらどうしよぉ〜……」
「それは、大丈夫じゃないかな? 性格的に重いって言われるより……」
「そ、そうなんだけど、物理的に!」
「うーん……その辺は大丈夫だと思うよ? 気をつければ……」
光莉は疲れてベッドに腰掛けた。
「ねえ、ひーちゃん……」
「なに?」
「明日のデートなんだけど、本当に私だけ行って大丈夫なの? ひーちゃんは……」
「うちはべつに、明後日があるし。それで〜、咲人くんにー、あーんなことや、こーんなことをー……ふふっ♪」
光莉は頬を赤らめながらニヤニヤと笑う。
「な、なにをする気ですかっ⁉ そのあたり、詳しくっ……!」
と、千影は真っ赤になってベッドの上で正座した。
「それは〜……秘密。でも、キスまでしたってことは〜……」
「まさかその先に進むつもりですかっ……⁉ 私を置いて行かないでっ……!」
「じゃあ、ちーちゃんも明日のデート、頑張らないとね?」
光莉はそう言うと、千影の頭を撫でる。
光莉からすると、千影は本当に可愛い妹なのだ。咲人のことを譲るつもりはないが、姉として自分だけ美味しい思いをするわけにもいかない。
だから、少しだけ発破をかけた。
こういうことにあまり自信のない千影に、頑張ってほしいという感覚は——歪んでいるかもしれない。その自覚はある。
けれど、千影に対して不思議と嫉妬心は生まれない。
咲人を好きでいるのと同時に、やはり千影のことが好きなのだと光莉は思った。
「でも……いざってなると、やっぱり怖いというか……」
「そうかな? 咲人くん、器は大きい人だし、ある程度失敗しても大丈夫だと思うよ? あまり完璧主義にならなくていいんじゃないかな?」
「そ、そうかもだけど……」
光莉は、ここは姉の出番かもしれないと思った。
困っている妹を放っておけないし、同時に、こんな自信のない妹を送り出して、明日のデートで咲人を困らせるわけにはいかない。姉として、彼女として。
「よし、じゃあうちに任せて!」
そう言うと、光莉はバタバタと自分の部屋に向い、バタバタと帰ってきた。
手になにか、小型の機械を持っているようだが——
「ひーちゃん、それなに?」
「ふふーん。これを咲人くんにバレないように使えば大丈夫!」
「え? バレないようにってどういうこと?」
「ものは試し。ちょっと挿れてみようか——」
光莉はニコニコとしながら千影に近づく。
「えぇっ⁉ ちょっと、ひーちゃん⁉ い、いきなり……あっ……——」
ベッドに押し倒されるかたちになった千影の目前に、光莉の顔があった。腹をまたがれ、すっかりマウントを取られている。
千影は光莉の顔をまじまじと見た。同じ顔だと言うのに、どうして姉のほうが綺麗に見えるのだろう。自分にないものを持っているからだろうか。
きっと、自分よりいろんな経験が豊富だからかもしれないが——
「ちーちゃん、右耳貸して?」
「えっと、あの……あっ……」
右耳に光莉の指先が当たり、つい変な声が出てしまった。耳は弱い。息を吹きかけられるのも苦手なのに、光莉はふにふにと耳たぶを弄び始める。
「ふ、ふざけてる……?」
「ううん、確認。やっぱりうちのほうが柔らかいなぁって思って」
「それがどうしたの……?」
「ふふーん。人違いをしないためのおまじない。——じゃ、そろそろしてみよっか」
クスッと悪戯っぽく笑う声が千影の耳元で響く。
「へ? ちょ……ちょっと待って……!」
「うちは最近使ってないけど、痛くないと思うから……」
「え……? ちょっ……——つっ〜〜〜……」
怖くて目を瞑った。
が、右耳に違和感を覚えたあと、千影はゆっくりと目を開けた。
「……え? これなに?」
おそるおそる触れてみる。
なんとなく硬さと形で察したが、右耳に挿し込まれているのはイヤホンだ。
「うちが前に使ってた『耳からうどん』のやつ。今はヘッドホンがあるから使ってなかったんだけど、ちーちゃんにあげるね」
「あの……私も持ってる……」
「まあまあ。せっかくの姉の厚意だから受け取り給え」
千影はイヤホンを外した。やはりBluetooth接続の、自分が持っている同じワイヤレスイヤホンだった。
「……それで、このイヤホンでどうするつもりなの?」
「ふふーん。決まってるよね?」
光莉は自分のスマホをひらひらと振って見せた。
「——あ、そういうこと⁉」
千影はようやく理解した——理解したが、急に恥ずかしくなった。
「……ていうか、ひーちゃん……ややこしいんだよぉ……いつもいつも〜……」
「……? なんで?」
光莉は天然というか、なんというか——こういう色仕掛け的なことを他意なく平気でするので敵わない。もしや咲人はこれにやられたのではないか。そう思うと、千影としては釈然としない。
いや、自分だって本気を出せば姉くらいのポテンシャルはあるはず。
双子だから、たぶん、きっと——。
姉が協力してくれるみたいだが、それ以上に頑張らねばならぬと自分を奮い立たせる千影だった。
(第8話に続く!)
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次回更新が先行公開のラスト!
11月7日(火)!
休日、咲人は千影と遊園地デートに!
しかし、千影は弾けた服を着て、積極的にアプローチを仕掛けてくる。
そう、誰かが指示しているかのように……!?
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