第129話 私が貴方の運命の人でした 【最終話】

 誕生日パーティーを終えて我が家に戻ってくるなり、ユウはシウの身体を抱き締めて肩の辺りに顔を埋めた。

 今日はシウの誕生日だというのにユウの方がたくさんのサプライズをもらって、これではどっちが祝ってもらったのか分からないほどだった。


 深く、大きく呼吸をして、ずっと耐えていた感情を吐き出した。


「シウ……ありがとう。僕の家族になってくれて」


 シウがイコさんのお腹の中にいると分かった日、その時はまだ妊娠がどういうものか理解していなかった。

 特に子供が出産をする大変さを知らないで、軽はずみに支えるといった自分を悔やんだほどだった。


 だって、実際に妊娠して命懸けで出産するのは女性なのだ。男である自分に出来ることなんて限られていて、無力さを常に感じていた。


 それでもあの時、イコさんが産むと決めてくれたお陰でユウとシウは家族になることができたのだ。感謝しかない。


「シウ、お腹を撫でていい?」

「勿論だよ。むしろたくさん撫でてあげて」


 この細い身体が日々膨らみ出して、赤ん坊を育むなんて想像できない。だけど神秘的だ。ここに、二人の血を継いだ赤ちゃんがいるなんて……。

 目の奥が熱くなって、気付けば涙が頬を濡らしていた。


「……シウ、僕は一生君とお腹の中の子供を守るよ」

「———うん、ユウとなら幸せになれるって信じてるから。これからもよろしくね」


 お腹に耳を当ててみたが、まだ何も変化はない。当たり前だ……まだ産婦人科でエコーもしてない段階だ。週数も6週目に入ったところだとシウも言っていた。今度、検査をしてもらうとか。


「まだ心拍が確認できるまでは安心できないんだけどね。初期の流産とかも多いみたいだし……。でも、それでもユウには言いたかったの」


 そう、これはゴールではなくスタートなのだ。つい忘れがちだが、お腹の中の赤ちゃんが順調に大きくなって、母子ともに健康に出産を終えて、そしてすくすく育つのは……奇跡の連続なのだ。


「ちなみに検診にはいつ行く予定? もし良かったら僕も一緒に同席したいんだけれど」

「え? でもユウ仕事は?」

「半休取ってでも行きたいんだ。だって僕らの子だろう? シウと一緒に確認したいんだけど、ダメかな?」


 ユウの言葉にシウは目元を押さえながら頷いた。その時の笑顔を見て、更に顔付きが変わったなと思っていた。

 もう少女ではない。これは子を愛しむ母親の顔だ。


「ユウ、私……生まれてきて幸せだった。それはきっと貴方という運命の人が傍にいてくれたおかげだと思う。ずっと私の傍にいてくれて、ずっと私のことを大事にしてくれてありがとう」


 それを言うなら、ずっと一途に想い続けてくれたシウのおかげで結んだ縁だと思う。


 歪だった関係が正しくなったのは、全部シウのおかげだ。


「ねぇ、ユウ。妊娠してるからイチャイチャはできなくなったけど、だけは継続て欲しいの」

「アレ……? アレって何?」


 もう、と拗ねるように唇を尖らせて、しうはユウの首に腕を回して距離を縮めてきた。


「私達の最初の約束、1キス1ハグだよ? これだけは結婚しても、お互いおじいちゃんおばあちゃんになっても続けていこうね」


 子供が出来ても、歳を取ってもか。

 だが長い年月、共に過ごしてきた二人だ。きっと何が合っても大丈夫だろう。


 ユウとシウは目を合わせて笑い合い、そのまま抱き合いながらキスを交わし合った。


 ・・・・・・・・・★


「きっと僕らは、一生この日を忘れないだろう。きっと彼女が歳を重ねる度に、この日のことを思い出し、愛しい我が子にパパとママの出逢いを語るに違いない。そしてこう伝えるんだ。『世界で一番大好きだよ、生まれてきてくれてありがとう』と」


 ———・・・ END ★



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