医学研究室の朝 冬



17時前後に結果を得ることが出来た


暗くなり始めた窓の外は

都会には珍しいくらいの緑が見えたものだった


今は何年も掛かって作り上げられた遊具やベンチがあり

暖かな日には

幼稚園児や小学生が小さなバッグを背負って

集団で遊びに来る姿も珍しくない


立派な公園ができたものだと思う


研究員室の窓から離れ

実験室へと向かう

結果が出れば家に帰ろうと思っていた


その結果が如何に陳腐なものであっても

夜遅くまで残って研究などする必要はないだろう


家に帰れば良いと


そう決めてはいたものの

思いも寄らない良い結果は

自分自身を鼓舞するには十分であった


仮説通りの結果が出れば

次に行う実験は既に決まっていた


結果次第ではあったが

予想を超える結果に

その向こうにある真理を導きたくなった


もう一度だけ確認しておこうと

再度の結果確認が終わった時には

19時を過ぎていた


続けよう


そう思った


実験結果を導く反応時間は

ざっと見積もっても10時間くらいだろうか


サンプルをマイナス80度のディープ・フリーザーから取り出し

試薬を調整して実験を始める


全く眠くない

それどころか目は爛々と輝いているのではないか

そう思えるくらいに

気持ちは高揚している


ただ

体の動きが鈍い

精神は前へ進もうとしているのに

身体は悲鳴をあげているようだ


3回目の反応を終えて

最後の反応で結果を得ることができる


もうすぐ朝になる


研究員室に戻ると

窓の外を見る


太陽が昇る前の朝の静けさ


眠れるだろうか?


実験室に残した器具の後片付けを済ませ

部屋の隅のソファーベッドに仰向けに寝転がると

外が明るくなり始めている


窓際に立ち外を眺めれば

誰も居ないブランコの横

冷たい朝の光に照らされて

長い滑り台が輝いていた

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