1-16 錯綜
7月10日 木曜日
お昼時間、優子と食事をしていた。
「ねえ茉莉花、なんか今週ずっと変じゃない?」
「う、別に……」
「何?いいことじゃなさそうね、なんでも話してよ」
「う、うん……」
打ち明けていいのだろうか、少し悩んだが優子に話すことにした。
「実はね、知り合いが指名手配されたの」
「え、なんで何をやらかしたのよ、てか茉莉花の知り合いって?」
「バイト先の常連さんなんだけど、2年前の政治家を狙った事件知ってる?その共犯者だってことで指名手配されているの」
「うーん、なんかあった気もするわね。でも今更なんで」
「私にも分からない、カフェのみんなは冤罪だって、それで……」
この続きを言うか迷ったが誰かに話したかった。
「どうしたの?それで?」
「う、うん、それでその、私の入っているサークルを支援している団体が宗教団体みたいなの、それも危険な組織らしいの」
優子は驚いた表情を見せた後、少し考え込んで続ける。
「それ本当なの、だとしたら逃げた方がいいんじゃない。よく考えたら名刺渡してきたあのイケメン先輩も怪しいのかな」
「さ、佐野さんは優しいよ、でもバイト先のみんなと佐野さんの言っていることが違って、何を信じればいいかわかんないの」
私は板挟みな気分で苦しかった。
「なら確かめたら」
「た、確かめるって、どうしたらいいの?」
「直接、その団体に聞きに行くの、て言うのは冗談でゼミの先生とかに相談してみたら、私も調べては見るけど」
「わかった、ありがとう」
優子の助言通り、私はゼミの先生に聞いて見ることにした。
翌日、ゼミ終わりに教授に相談があると伝え、空きコマである午後に聞いてみることにした。
教員棟を訪ね、ゼミの教授の部屋をノックする。中から声が聞こえ部屋へと入った。
「篠宮君、授業のことかな?」
「い、いえ、別な件なんですけどサークルについて」
「サークル?君はボランティアのサークルだっけ?」
「そうです、そのサークルを支援している団体が危険な団体と聞きまして」
「危険?危険とは?」
「
「ああ、宗教団体だろう。あまりいい噂は聞かないがね」
「その詳しく教えていただけますか」
「んん、まあ私も詳しくはないが」
教授は知っている限りのことを教えてくれた。
「まず、
教授は険しい表情になった。
「半グレって知っているかな、犯罪組織のような奴らなのだけど、そういった団体と関係していたり、マルチ商法や霊感商法を行っているとの噂もある」
やはり、花さんが言っていたことは正しいのだろうか。
「そ、そうなんですね。教えていただきありがとうございます」
「しかし、どうしてまたそんなことを気になっているのかね」
「せ、先輩が関わっているみたいで」
「そうか、君も詳しく知らないようだし、少し距離を置いた方が賢明かもしれないね」
そう忠告されてお礼を述べて私は部屋を出た。
ー午後6時ー
私はエアローショップでドリンクを購入し帰宅した。
ドリンクを一杯飲み、少し気分を和らげて再びネットで調べてみるも、あまり手がかりはない。掲示板ではそういった話も出てくるが、佐野さんがいっていたように信憑性が疑わしい。
優子もよく分からないと連絡が来ていた。明日の土曜日、サークルの活動日だが一回、休むことにした。
7月13日 日曜日
今日は12時から閉店までアルバイトだ、最近、いろいろなことがあって気分的に疲れていたが、頑張ろうと思い、重い腰を上げ起き上がる。
朝食を食べ、少しニュースを見ていた。もう勝己さんの事件は取り上げられていなかった。
このまま風化してしまうのだろうか、そう思うと怖くて堪らなかった。
少し横になりながら夏の空を窓越しに見ていた。なぜだろう、不思議と涙が出ていた。
午前11時、私は支度を済ませるとテリアへと向かった。
テリアへ着くと開店して2時間ほどだが、お昼ということもあり混んでいた。
「あら、おはよう。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。この前はごめんなさい」
なぜか誤ってしまった。
「気にしないで、勝己さんのこと心配してくれてありがとうね」
「無事だといいのですが……」
「大丈夫よ、きっとすぐ戻ってくるわ。何もしてないもの」
そういう花さんは少し涙ぐんでいた様にも見えた。
いつも通りレジ番をしながらコーヒーなどの提供やオーダーを取ったりしていた。
午後2時ごろ、絵里さんと交代し休憩に行くことになった。
「お疲れ、休憩してきて」
「は、はい」
「勝己さんの事は心配しないで、大丈夫」
そう言い残し、絵里さんは店内へと出て行った。
事務所へ入ると店長さんがいた。
「お、お疲れ様です、休憩いただきます」
「お、おう、なあ茉莉花ちゃん、少しいいか?」
「君の大学でマルチ商法をやっている奴らはいないか?まあそう言われてもわからんだろうが、変な声がけとかされたら教えてくれ」
「マルチ商法ってどういうものですか?」
「ん、これを売ると稼げるとかいって何か買わされたり、マルチって訳ではないが儲かるといって商材を買わされたり様々だ」
私はいつも飲んでいるドリンクの件が、もしかしたらそれに該当するのではと思い、怖かったが店長に素直に話した。
「エアローショップねえ、調べてみるよ。だがそれはマルチの類に間違いない気がするな。誰かに売ったか?」
「い、いえ売ってません」
「ならよかった。決して他の人に勧めてはダメだ。その先輩から距離を置くようにした方がいいな」
「わ、わかりました」
店長さんと佐野さんの言うことは正反対だ。だがやはり佐野さんは何か隠しているんじゃないかと思い始めていた。信じたくはなかったが教授の言うことも照らし合わせると答えは明白な気がしていた。
午後8時、アルバイトを終えて絵里さんと帰宅していた。
「絵里さん、随分と長く働きましたね」
「え、まあ、残業気味だけど稼ぐためには仕方ないのよ」
「何かあるんですか?」
「べ、別に何もないわよ。生活費と貯金」
貯金か、そういえば私は全然できていなかった。
「偉いですね、っていうと上から目線みたいですが私も貯金したいです」
「まあ一人暮らし大変だよね、でもした方がいいわよ」
「は、はい」
そんな会話をしていると家に近づいてきた。
「私はここで、お疲れ様でした」
「気をつけてね。勝己さんのこと、ありがとう」
そういって絵里さんは帰って行った。
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