1-9 カフェ“テリア‘‘

6月10日 火曜日

 2コマ目を優子と受け、お昼の時間。

 今日はカフェではなく和食メニューを食べることにした。

「今日、初バイトって言ってたわよね、見つかってよかったじゃない」

「そ、そうなの。なんかね変わってる店長さんで即採用だった」

「それ大丈夫?でもカフェだもんね。怪しいコンカフェとかじゃないよね」

 コンカフェとはコンセプトカフェのことだ。私は言ったことないが、かつてのメイドカフェのようなコンセプトがあるカフェのことだが私のアルバイト先は至って普通のカフェというよりも喫茶店みたいな雰囲気だった。

「大丈夫だよ、古風な感じだったし」

「それならいいんだけど……」

 優子は心配している様子だった。それは私も同じ。あの時は流れで決まって深く考えていなかったが、最初のアルバイトなので、今更、緊張してきた。

 優子に心配されながらご飯を食べ3コマ目の時間になったので教室棟に向かった。


ー午後4時頃ー

 今日は3コマ目のなので一回、帰宅した。アルバイトは5時から8時までなので、軽く軽食を食べて向かおうと、トーストを焼いた。

 こんがりとした匂いが漂う中、パンを食べつつドリンクを飲んだ。

 時刻は4時半、そろそろ向かわなくちゃ。


 カフェ“テリア“へと着いた。レジのお姉さんに声をかけると奥へと案内される。聞いた話ではバイトは2人、レジのお姉さんと学生が1人、あとは店長と奥さんで切り盛りしているそうだ。

 

 奥で制服に着替え、エプロンを身につけた。そういえば受付のお姉さん、可愛かったな。私の先輩になるのか。あとこの制服、なんか店長の趣味が入ってそう。ピンク色のシャツで、下はスラックス。靴はスニーカーとかでいいそうだ。エプロンは腰のあたりにフリルがついていた。女の子用だと店長は言っていたが、過去に男の子はアルバイトでいたのだろうか。

 

 着替え終わると、1人の女性が指導してくれることになった。

「初めまして、奥井花おくいはなです。茉莉花ちゃんよね、よろしくね」

 店長の奥さんだそうだ。とても美人さんだし、優しく柔らかな物腰で話す人だった。

 簡単なコーヒーの淹れ方やケーキを皿に乗せてだす作業や、レジ打ちなど教えてもらった。1時間ほど経ったら、10分くらい休憩していいよと事務所に通された。

 

 そこで、先ほどのレジ打ちをしていたお姉さんにあった。私と入れ違いで休憩に入り、自己紹介しかできていない。彼女は絵里えりさんだ。

「あの、今日から入ります、篠宮です。よろしくお願いします」

 少し不自然気味に声をかけてしまった。絵里さんは金髪で長い髪を後ろで縛っている姿が印象的だ。

「ああ、新人さんね。さっきも名前、聞いたわよ」

 少しそっけなく返答される。

「どう慣れた?」

「い、いえ、まだ、何も……」

 ちょっと強気な感じの人で萎縮してしまった。

「そんなに緊張しなくて平気、ここ常連さんくらいしか来ないし。私、明日の仕込み、少ししたら上がるから」

 そういうとエプロンを着て厨房の方へ言ってしまった。なかなか気難しい人の気がした。

 

 しばし、休息しまた教えてもらうことに。この1時間、お客さんは常連のお爺ちゃんくらいで、誰も入ってこない。

「あの、平日はこれくらいのお客さんなんでしょうか」

「え、ええ、ここ常連さんが多いから。あの人たちのおかげで成り立っているようなものよ」

 はなさんはそう説明してくれた。

 すると入り口のドアが空いた。


「い、いらっしゃいませ」

 初めてのお客様だ。なぜか息が上がっている若いスーツ姿のお姉さんだった。日本人ではなさそうだ。とても綺麗なブロンドヘアの女性で背も高かった。

「あら、バーバラさん、どうしたの、そんなに慌てて」

 花さん曰く常連のA国人だそうだ。名前は日本人ではないが日本生まれ日本育ちだそうだ。

「今日は忙しくて、でもどうしてもコーヒーが飲みたくて来ちゃいました」

 そういうとバーバラさんは席に座る。注文は知ってるけど聞いてきてと花さんに言われ伺いに行く。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「あら、新人さんね、可愛いじゃない」

 全然、会話が噛み合っていないが、花さん曰く常連さんは決まったものを頼む人が多いので注文しないそうだ。

「注文はいつものコーヒーとチーズケーキ、まだ残ってたらそれもお願いします」

 バーバラさんはそういうと頭を下げた。礼儀正しいお姉さんだった。

 

 花さんがバーバラさんにこの子の初コーヒー飲んであげてと言って淹れることになった。初めてで緊張したが、味はどうなのだろうか、自分も少し飲んだがコーヒー自体が苦手な為、よくわからない。

「こ、こちら、お先にコーヒーです」

 少し震える手でコーヒーを持っていくとバーバラさんは飲む前に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。そして口元にカップを近づけ一口飲むと考え込むような素振りを見せてこっちを見た。大丈夫なんだろうか。

「グッド!いいね、美味しいよ、君センスあるじゃん」

 お世辞かもしれないが褒められて嬉しかった。花さんも横でにっこりしていてくれた。

 店長が奥からチーズケーキをなぜか2個持ってきた。

「茉莉花ちゃん、今日は多分もうお客さんこないから食べていいよ。あとバーバラちゃんも半額でいい、残り物だから」

 そう言い残し店長さんは厨房へと戻っていった。

 

 花さんがコーヒー淹れてくるからと言って離れ、なぜかバーバラさんと相席する形で座った。

「このチーズケーキ、なかなか美味いのよ。食べてみて」

 そう言われ勤務中だが一口、食べる。とても美味しい。程よい酸味と甘みのバランスが絶妙だった。しっとりとしていて食べやすい。

「どう、美味しいでしょ」

 バーバラさんは美味しそうに食べていた。

 花さんがコーヒーを持って来てくれた。

「これがうちの看板コーヒー、シンプルなブレンドのものよ」

 先ほど、私が淹れたのと同じものだ。ひとくち飲んでみた。

 なぜだろう、味見した時と全然、違って感じるし、匂いも少し違うようだ。

「コーヒーは淹れ方で味が変わるのよ。茉莉花ちゃん腕が良さそうだから磨けば光るわね」

 花さんはそういうと少し離れてレジの締め作業を始めた。

「気にすることないわよ、君のコーヒーも美味しいよ」

 バーバラさんに慰められた。

 

 私は食べ終わると、店長さんが今日は上がっていいと言われ着替えをして帰路に着く。

 思っていたアルバイトとは少し違ったが楽しかった。それが率直な感想だ。

 次は木曜日だ、また頑張ろう、そう思いながら家へと帰った。

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