1−8 集金活動
6月1日 正午
目的地に着くと、先輩が数名がいたが佐野さんの姿はなかった。
私たち1年生は先輩の指示に従い、首からボードを下げ募金箱を持ち通行人に呼びかけたり、場所を少しずつ変えながら募金を呼びかけた。
『◯市の幼稚園の改修のために募金をお願いします』
そう叫び続けた。声が少し枯れてきた気がする。普段は声を張ることなどないからだ。
2時間ほど続けたところで休憩しようと先輩たちが言うので、私と里見、先輩の1人で近くのファミレスに入り、昼食を兼ねた休憩に入った。
「疲れたでしょ、大丈夫そう?」
先輩が心配そうな表情で気を遣ってくれている。
里見は元気そうに答えた。
「はい!意外と平気です」
「わ、私も大丈夫です」
私は形容し難いが、いいことをしている、人の為になっていることをしている実感があり達成感があった。
その後、1時間ほどご飯を食べ、軽く談笑し休憩を終えて他の部員たちと交代してまた募金活動へと戻った。
2時間ほど経過した所で、今日はここまでと言うことで募金箱を先輩に渡す。
私たちは交通費として2千円を受け取った。断ったがこれは会費から出しているから大丈夫と言われ大人しく従った。
「交通費なんてもらえるんだ、意外だね」
里見も驚いていた。私たちの街までは片道、数百円だったので残りのお金で里見とカフェでお茶をすることにした。
カフェに入り、紅茶とケーキをお互いに注文した。
「ねえ、あんたさ、佐野さんのこと、好きなんでしょ?」
やっぱりばれているものなのかと思った。
「う、うん、ちょっと惹かれてる感じ?」
「そ、そう、まあかっこいいもんね、それで何かアプローチしたの?」
「す、するわけないよ、てか出来ないよ」
私は連絡先は聞いてるが、これと言って連絡するわけでもなく特に何かあるわけではもちろんない。一回食事には行ったけど、デートってほどではなかった。
「私は応援するよ、何か出来るわけじゃないけど」
里見はそういうとケーキを頬張った。
「ありがとう、私も好きっていうか憧れっていうか、推しみたいな感じなの」
「それ好きじゃないの?まあ頑張ってよ」
改めて言われて恥ずかしかったが、言われてみて自分の気持ちに気づく。
好きという気持ちは恋なのか、好意的と言うだけなのか、今の私には判別がつかなかった。
里見の大学での近況なども聞きつつ、1時間ほど滞在し店を出た。
帰宅して、ドリンクを飲みながら課題を終わらせ、ベッドに横になる。
私は佐野さんが好きなんだろうか、ずっと同じ思考がぐるぐると頭の中を回っていた。
ー夕方6時ごろ、新宿某所ー
「佐野、持ってきたぞ」
今日、俺は
このお金は幼稚園にも使うがほんの一部だ。今日はあまり収穫はなかったみたいだ。両替に手数料がかかるので細かい数円は幼稚園へ募金し、残りのお金は会へのお布施として納金する。
俺は預かったお金を会合の場にいた者に手渡した。
「これは今月分です」
「ありがとう、いつも熱心にどうも」
そうだ、これは俺を救ってくれた会に対して、人々の平和のためなんだ。
いずれは恵まれない子も助けられるだろう。そのために俺は会へ忠義を誓っている。
6月6日 金曜日
私は完全に中毒なレベルでドリンクを飲んでいたが、購入するために食費を切り詰めても限界だった。誰か紹介すれば割引になる、キャッシュバックが入ると言われたが、そんな当てはない。
私はアルバイトをしようと思いつき、手当たり次第応募した。
すると、近くのカフェが面接の希望日を教えてくれと連絡が来た。今週の土日が空いていると返信するとすぐに連絡が来て、明日、面接となった。
私はアルバイトに備えネットで内容を熟読した。まあよく行ってる場所だし大丈夫だろうと楽観視していた。
明日の午前の為、早めにシャワーや課題を済ませ寝ることにした。
翌日、朝7時、異様に頭が痛い。ひどい偏頭痛だ。薬を探すが見当たらない。とりあえず机の上にあったドリンクを飲み横になる。
1時間ほど経つと少し体が楽になってきた。熱があるわけでもなく他に症状もないため支度を済ませ、応募したアルバイト先のカフェ“テリア“に向かった。家から歩いて10分くらいの場所だった。
いつもは駅近くのカフェを利用するため、見かけたことはあるが言ったことはなかった。
中へ入り面接で来た旨を伝えると奥へと案内される。緊張しいていたが不思議と落ち着いていた。
「初めまして、店長の奥村です、よろしく」
恰幅のいい店長さんが挨拶をする。
「は、初めまして、篠宮茉莉花です」
「緊張しなくていいよ、座って」
6畳くらいのスペースの事務所の机の前の椅子に座る。
店長さんはゆったりとした感じで面接を進めた。履歴書を一通り目を通すと横に伏せておき私に尋ねる。
「履歴書は所詮、ただの経歴だ。それより君はなぜ働きたいのかな?」
少し変わっている人だと思ったが悪い人じゃなさそうだと直感した。
「私は生活費を賄う為にアルバイト先を探していました。でもなかなか通らなくて、カフェは好きです。よく行きます」
回答になっているかわからないがそう答えると、顔色一つ変えずに店長さんは頷く。
「うん、まあ大学1年生、色々と上京して慣れないこともあるだろう。いいよ、君は悪い子じゃなさそうだ、雇うよ」
即決した。え、こんなにあっさり決まるものなの?
「それでこの書類に目を通して、大丈夫ならサインしてシフト希望を教えて」
そういうと店長さんは仕込みがあるから少し外すと厨房の方へと入っていった。
拍子抜けした私は、とりあえず書類に目を通し、週に2回の希望をかいた。
すると、見計らったように店長さんが戻ってきた。
「週2回ね、いいよ。これからよろしく」
私の人生初のアルバイトはこうして始まることとなった。
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