1-6 不思議
5月17日 土曜日
今日は先週、佐野さんに誘われたパーティーが午後からある。
楽しみと不安で昨日はあまり眠れなかったので遅めの時間で助かった。
ゆっくりと午前中を過ごしていたら気づけば午前11時、支度しようと思い、立ち上がる。
支度を済ませ12時過ぎには家を出た。どうしてもギリギリは嫌なので早く着くとわかっていてもそうしてしまう。
駅で待つこと30分は経過した頃、時間通りに佐野さんが来る。
「お待たせ、早いね。それじゃあ行こうか」
そう言われ横を歩く。緊張するな。
少し雑談を挟みつつも、数分歩くとすぐ着いた。大きめな市民ホールだった。
中へ入ると、目の前に開けた空間、入り口の横に今日の予定と書いてあるボードが目に入る。午後1時、
上の階へと上がり、大きめのメインホールへ入ると映画館くらいの大きさはあった。あまりこういう場所は経験がなかった。
すでに何人かいており、以前お会いしたOBのシンジさんなどがいた。年齢層は少し高めのように感じた。というのもOBらしき人を含め数十人いるが、学生は居なそうだった。
少し気まずい空間だが佐野さんがフォローしてくれたことで何とか場にとどまれた。
午後1時になった頃に司会からアナウンスが入った。
「今日お集まりの方々、ありがとうございます。今期の最初の交流会を始めたいと思います。お手元のドリンクを掲げてください」
そういうとみんな手に持ったグラスを上へ掲げる。とりあえず私も真似をした。
「人類に栄光あれ」
『人類に栄光あれ!』
皆が司会に合わせ、声高々とそう叫んだ。異様な雰囲気に少し萎縮した。
その後は各々がテーブルを囲み食事をしたり談笑を楽しんでいる様子だった。
テーブルといっても高いハイテーブルで、基本的には立って飲食するようだ。
佐野さんがOBに呼ばれ少し離れると1人になってしまった。そんな時に、ふと目があった年配の女性が声をかけてきた。
「新人さんか、見ない顔だね」
「え、はい、始めてきました」
「そうかい、誰に呼ばれたんだい?」
「さ、佐野俊介さんです。大学の先輩なんです」
「おお、佐野くんかい、彼はいい子だよね、熱心だしあんたも頑張りや」
そういうとおばあさんは行ってしまった。
しばらく周りの人に声をかけられるが、あまり続かず、少し話しては会釈して離れていくの繰り返しで疲れてきてしまった。
帰ろうかとも思った時に佐野さんが戻ってきた。
「ごめんね、1人にさせて、少し話そうか」
「い、いや大丈夫でした」
佐野さんの前で疲れたから帰りたいなんて言えないし、話せるのならそれで良かった。
「どう楽しい?」
「は、はい、なんか新鮮です」
「そっか、でも緊張するよね。慣れな場所に知らない人、俺も最初はそうだったよ」
佐野さんは自身が始めてこのパーティーにきた時のことを語る。
「俺もさ、初めは茉莉花ちゃんみたいに緊張したよ。でも、みんないい人たちなんだ。今ではみんな仲間だよ」
仲間、その言い方に私は少し引っかかりを感じるも、佐野さんの声に耳を傾けた。
「そういえば、ここの食事どう?」
「え、そうですね、美味しいです」
本当は緊張して飲み物を少ししか飲んでいないが、そう答えた。
「ここの食材はこの
私にはそういうものなのかとしか思えなかった。
「あとこのドリンク飲んだ?」
そういってペットボトルのジュースを渡される。会場で飲めるジュースとは違うみたいだ。
「これは、滋養強壮の効果があってね、体にいいんだ」
一本飲んでみてと渡される。
そんな話をしていると副会長と名乗る人物のスピーチが始まった。
「お集まりの皆様、ありがとうございます。今期も目標を達成することができました」
何の事かは私にはわからないが、場内からは拍手が起こる。
「次に商品部門のエアロの売り上げも好調で右肩上がりです。皆様の活動の賜物ですね」
これに関してもなんのことかは分からないが、先ほど話していたドリンクなどを売っているのだろうか。
疑問に感じながらもスピーチは10分程度続き終わった。
佐野さんともう少しだけ他愛のない会話をして、お開きとなった。
「またね、茉莉花ちゃん、今日はありがとう」
「い、いえ、こちらこそありがとうございました」
佐野さんと別れ家に帰る。今日の出来事を優子に連絡してみた。
まだ夕方なので返信はすぐに来ることはなかった。
晩御飯を食べているとスマホの通知音が鳴った。佐野さんからだった。今日はありがとうとの連絡と、次のサークルは2週間後に募金活動を行うとのことが記載されていた。丁寧でまめな人だなと思う反面、何かにのめり込んでいるような印象も抱いていた。
ふと目に止まったもらってきたドリンクに目がいく。疲れているし飲んでみようかな。そう思って手に取るがやはり見たことのないパッケージだった。
裏に製造社名が記載されているが、会場でも聞いたエアロと書いてある。
私は調べてみる事にした。あまり詳細は出てこないが通販で1本2000円で売られていた。その価格に驚いた。え、高すぎないと思う。チルアウト系飲料とも書いており調べるとそういう成分があることしかわからない。
私は興味半分、怖さ半分で迷ったが、一口飲んでみた。
すると、果実のフレーバーが口全体に広がり、とても心地が良かった。心なしかリラックスして来た気もする。
この手のドリンク類は飲んだ事がないので新鮮だった。
高揚感と多幸感で満たされた。そのままベッドで少し横になると、気づいた時には眠ってしまっていた。
翌朝、ひどい頭痛と吐き気で目が覚めた。
身体中から血の気が引くような感覚に襲われる。
疲労感もあり、とてもではないが外出できる気力がなくトイレで嘔吐した。
ベッドで横たわりその日は大学を休み家で寝て過ごした。
5月24日 土曜日
あれから3日ほどたち体調は回復して木曜と金曜は大学へ通えた。
優子は相変わらずサークルに夢中なようだった。
今日はなんの予定もないが、今週は体調不良もあり鬱々とした気分だった。
ふと、この前飲んだドリンクを思い出した。あのドリンクの心地よさを味わってみたくなり佐野さんにどこで帰るのか聞くと、売っている場所に案内して来れるという。
佐野さんと待ち合わせをする事になった。
午後1時、駅で佐野さんと落ち合った。少し歩いた繁華街の路地裏に一軒のセレクトショップのような小さめなお店があった。
エアローショップ、そう書いてある看板が掲げられていた。
中へ入ると、レジに人が1人いるだけで他にお客さんはいないようだった。
「茉莉花ちゃんに試したもらったのはこれだよ」
佐野さんはそういい、指で示す。一本1500円もするドリンクだった。価格の高さに驚くがあの感覚を味わえるならと1本手にとる。
「そうだ、茉莉花ちゃん、ここだけの話なんだけどさ」
そういいお得な話があると切り出す。
「ここのお店にはメンバーシップというシステムがあって、会員には無料でなれるんだ。それでね、そのドリンクを誰かにお勧めして、その人がまたリピートしてくれたら10%のキャッシュバックがあるから、実質的に安く購入できる仕組みなんだ」
私が誰か1人にお勧めし、その人が買えば、その代金の10%が私のメンバーシップカードにポイントとして振り込まれるとのことだ。複数人買えば、その分のキャッシュバックが入り、現金として振り込んでもらうこともできるという。
私は早速、メンバーシップに入り、アプリを入れさせてもらって2本買ってみた。
「ありがとう、そのドリンク、とてもいいでしょ。ぜひ周りにもお勧めしてみて」
「わ、わかりました」
佐野さんと他にもサプリなどあると一通り説明を受ける。全部の品が少し割高だが、質が高いため価格の差は気にならないほどの効果があると言っていた。
少しショッピングを楽しみ、佐野さんは用事があると帰ってしまった。
私も足取り軽く、家に帰り早速、先ほどのドリンクを取り出した。
佐野さん曰く、一気に飲むと場合によっては具合悪くなる人もいるため、コップ一杯程度がいいよと教えてもらった。
一口飲む。少し経つと、体がふんわりと軽くなるような感覚がした。これがエナジードリンクの力なのかと思い、もう一口、口に含み飲む。
気づけば一杯分、飲んでいた。高揚感に包まれると眠くなってきた。
またベッドで高揚感に包まれながら気持ちよく寝ていた。
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