1話



「ほえ?ここ…どこ?」


気づくと、雅は見知らぬ森の中に座り込んでいた


見たこともない植物達が、鬱蒼と生い茂っており、今までとは別の世界に来たのだと知らしめられる


「女神さま、魔王を倒せなんて言ったけど、むちゃだよ…」


魔王って何?状態の雅は、魔王の居るこの世界で生き残るなんて到底思えなかった


「でも帰る方法もわかんないし…」


その場でうなだれていると


「バウバウッ!」


「ひっ!」


黒い毛並みに赤い目をした、狼のような生き物が、こちらに向かって吠えている


「なになになに!?怖い怖い怖い!」


恐怖のあまりその場でうずくまり、動くことが出来ない


「ガルゥッ!」


狼のような生き物は、牙を剥き出し飛びかかってきた


「ごめんなさーい!!」


顔を伏せ謎の謝罪、死んだと思ったその時


「キャインッ」


情けない声が聞こえ、恐る恐る目を向けると、狼のような生き物は目の前で倒れている


「ど、どういうこと?」


その疑問に答えるかのように、目の前にステータスウインドが開く


「目の前になんか出てきた!なんだろこれ?」


初めて見るステータスウインドに驚く


『初めまして!ステータスウインドへようこそ!』


雅にも聞き馴染みのある声が聞こえてくる、そう、プリクラの音声案内だ


「は、初めまして!」


『いいお返事だね!ここではステータスウインドについて説明をしているよ!何か聞きたいことはある?』


「目の前の、狼さんみたいな生き物が飛びかかってきたはずなんですけど、なぜか狼さんが倒れていて…どうしてなんでしょう?」


プリクラの音声案内、もといステータスウインドに、丁寧に質問を投げかける


『それは君のスキル、【オートリフレクション】のおかげだよ!このスキルは、君に対する敵意や悪意のある物理的な接触を、問答無用で跳ね返してしまうんだ!』


「ほえぇ~、だから狼さんは倒れていたんですね」


女神さまが与えてくれたスキルの事だと、うんうんと頷き理解した


『他に質問はあるかい?』


「えっと、私には他のすきる?もありますか?」


『あるよ!敵を焼き払う必殺スキル!【みやビーム】だ!』


「み、みやビーム?」


ネーミングに思わずポカンとしてしまう、あの女神さまが付けそうなネーミングではある


『百聞は一見にしかず!みやビームの出し方を説明するから、真似してやってみよう!』


「は、はい!」


まるでプリクラのポーズを促す音声かのように、みやビームのレクチャーが始まった


『まずは敵に向き合う!』


指示通りに、狼のような生き物に対峙する


『そして!右手をピース!そのまま右目の前に!』


右でピースを作り、右目の前に持ってくる


『そこで!右目でウインクしながらみやビーム!と叫ぶんだ!』


「み、みやビーム!!」


みやビームの声とともに、紫色の、それはそれは禍々しいビームが放たれた


可愛いネーミングに似つかぬおぞましいビームが、狼のような生き物に直撃


狼のような生き物は、声を上げる隙もなく爆散した


「す、すごい…」


己の目から放たれたビームの威力に、驚きを隠せない


『どうだった??すごい威力でしょ?ぶっちゃけこのビームに耐えうる生き物は、この世界に存在しないよ!』


お茶目な声でとんでもない事を言ってのける


「それじゃ、このみやビームで魔王も倒せますか??」


『愚問だよ雅ちゃん!瞬殺!だよ!』


とんでもなく恐ろしいスキルだが、魔王を倒して、一刻も早く元の世界に戻りたい雅にとっては、嬉し過ぎるスキルだ


「そんなに強いすきる?があるなら、ちょっと安心かな。ステちゃん!他にも質問してもいい?」


『す、ステちゃん!?』


「うん、すてーたすういんど?は、長いしよく分からないからステちゃん!可愛いでしょ?」


未だかつて、ステータスウインドにあだ名を付けた事のある者が居ただろうか?


魔王もスキルも転生にも疎い、雅ならではの発想かもしれない



『そんな呼ばれ方をしたの初めてで戸惑うけど、雅ちゃんの呼びやすい様に呼んでくれればいいよ!』


「ありがとう!ステちゃん!」


屈託のない無垢な笑顔に、思わずステータスウインドが和んでしまう


『よおし!雅ちゃんの為にこの世界のあらゆる情報をお伝えしちゃうよ!』


そして、ステータスウインド、改めステちゃんによる異世界講座が行われた


雅が転生したこの世界【カルバン】は、

剣が支配し、剣の社会が形成されている。

全ては剣の腕がものを言う世界。

江戸時代、侍が台頭した時代と、どこか通じるものがあるかもしれない。


そんな世界に、


スキル

【オートリフレクション】

【みやビーム】

の最強スキルを持つ、最強女子高生が爆誕した。



ステちゃんの助言で、近くにある街へと向かうことにした雅、ステちゃんが道案内もしてくれるので迷う心配もない


(一時はどうなる事かと思ったけど、メチャ強なすきるもあるし、ステちゃんも居てくれるしなんとかなりそう!)


安堵の余り、思わずスキップで森を進む雅。このままステちゃんの案内で何事もなく街に着ける!と思っていたのだが…



「げへへ、運が悪かったなお嬢ちゃん」


盗賊と思しき一味に取り囲まれてしまった


数は10人ほどで、手には剣やナイフを持っている


「どうしよう…悪そうな顔のおじさん達に囲まれちゃった…」





こんな大人数、ましてや盗賊に囲まれる経験などない雅は、怖さで体が縮こまる


「へへ、大人しくしていれば、痛い目見ずに済むぜ?むしろ、俺達とちょっといい事しちゃうかぁ~?」


1人の盗賊の下品な発言に、大笑いする他の盗賊たち


「い、いいことなんて嘘でしょ!おじさんたちが、私に変なことしようとしてるのは分かってるんだから!」


恐怖をどうにか抑え、胸を張り威勢を張る


「なんか、この子本当に可愛いしおっぱいも大きいしさ、捕まえたら俺からさせてくれよ」


「何言ってんだ、俺が先だよ」


「ふざけんな、おっぱいちゃんに先に目をつけたのは俺だぞ」


盗賊たちが下世話な小競り合いを始める


『ゲスな奴らだね』


ステちゃんらしからぬ怒りの籠った声


「おめぇら!大人しくしろ!とっとと金目の物から奪っちまえ」


盗賊のリーダーだろうか、小競り合いがピタリと止み、じりじりと雅に迫ってくる


「と、とにかくみやビームを当てないとだけど、敵が多すぎて誰から狙えばいいかわかんないよぉ~」


雅のスキルは確かに強力だが、雅自身の戦闘経験が少なすぎて、上手く活かせないのも事実


「何おどおどしてやがんだ!可愛いんだよこんちくしょう!」


雅の後方から、盗賊の1人が飛びかかる


がしかし


『Auto REFLECTION』


先程の狼のような生き物との戦闘の時は、気が動転して分からなかったが、ネイティブな英音声と共に、反射音が響き渡り、雅の鉄壁スキル【オートリフレクション】が発動する


「な、なんだこりゃ!」



「ステちゃん!」


『雅ちゃん!俗物どもの汚らわしい攻撃は全部反射しちゃうから!安心してね!』


「うん!でも、ぞくぶつ?じゃなくて、敵は盗賊だよ!」


『そ、そうだね!とにかく!みやビームに集中して!』


余りにも純粋な発言に、訂正することを諦めるステちゃん


「右手はピース、そのまま右目の前に持ってきて…ウインクする!みやビーム!!」


教えられた通りの動作を行い、みやビームを放つ、相変わらずの禍々しいビームが、固まっていた盗賊4人に命中、そして爆散


「な、何が起こった?」


リーダー格の男が、異常な攻撃に思わず怯む



そこからはワンマンショーであった


「みやビーム!」


「ぐはぁっ!」


「みやビーム!」


「おたすけえ!」


「みやビーム!」


「ママァー!」


圧倒的な勝利である


全ての攻撃は無条件に跳ね返され、この世のものざらぬビームに焼却された盗賊一味


「て、てめぇ何もんだ…」


ボロボロのリーダー格の男


「え、何者…?急に言われると、そのぉ」


『雅ちゃん!こういう時はこう名乗るといいよ!』


ステちゃんに提案されたものは、少々恥ずかしさはあったが、受け入れ態勢◎の雅はそういうものなのだと聞き入れ

「わ、私は!闘う女子高生!雅です!!」


と、リーダー格の男を指差し叫ぶ


「わ、訳が分からねぇ……」


バタリと倒れるリーダー格の男


雅は盗賊一味を、たった1人で打ち倒したのであった



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