異世界英雄ヴァルブレイザー
ナナ=ブルー
第1話:正義の所在
人々が剣と魔法で武装しているエルラドル大陸。
俺はこの世界に、ヴェルク・アドラムという名の少年として転生してきた。
まあそこそこの発展を遂げた街――の、領主の息子が、俺だ。
一般市民として転生するよりはよほどいいのかもしれない。
そう思う。
街並みは、辺鄙ながらも集合住宅に商業施設など、大きな建造物もちゃんとある。
昼間は誰もが、こそこそと逃げるようにあちこちへ移動する。
しかし夜のとばりが下りると、街を外出する者はほとんどいない。
俺に言わせれば、このアドラム街で夜間に外出する人間は『イカれてる』奴だけだ。
そしてそういう奴らが、この街にはわんさかいるのだ。
つまり、皆が好き勝手にやっているってことだ。
じゃあ俺だって、いずれこの街で悪徳領主として好き勝手やってやろうじゃないか。
こんな所で、正義を気取るだけバカバカしいというものだ。
■
「マルヴィナ様、42区で暴動です!宝石店が襲われています!」
鎧を身に着けた騎士が敬礼と共に報告した。
「わかった、出動可能な者は?」
私は応え、壁に立てかけていた戦槍を手に取った。
「自分を含め、8人です!」
最近、ずっと考えることがある。
この街に正義はあるのか?
神殿に仕え、神の代行者として悪を討つ
それには何の疑問もない。
だが、こう毎日が出撃、出撃では――。
ため息を噛み殺す。文句を言っても始まらない。
「わかった、では出撃するぞ」
全ての疑問を振り払い、私は配下の騎士に言った。
もしこの街に正義が不在というのなら、私が正義の規範となるしかない。
■
「シオンか。早いな、もう殺ったのか」
バーテン風の男は、わたしを見るなりそう言った。
「報酬は?」
世間話に付き合う義理は無いため、懐に忍ばせた袋をテーブルに投げだし、用件だけを言った。
袋の中は、ターゲットを殺した『証』が入っている。
中身に関しては明言しないが、あまり、見ていて気分の良い物ではない。
「はいはい……依頼達成を確認した。報酬だ」
男は袋を投げ渡す。
すぐに中身を検めると、約束の半額分だけ貨幣が入っていた。
「半分しかない」
わたしがそう言うと、男はわざとらしく背を向けた。
「依頼主からの伝言だ。『次の依頼を引き受けたら、残りを払う』ってよ」
「そんなことは知らない」
「俺も知らねえよ。俺は
「そう」
それだけ言うと、わたしはカタナを抜いた。
店には鮮血が飛び散り、喋る者は誰もいなくなった。
わたしは悠々と店に隠されていたカネをまるごと頂き、雨の降り始めた街を歩き、裏路地の小さなバーを後にした。
わたしをもう少し便利使いしたかったのだろうが、信頼できない相手の依頼を受け続けるほどのバカではない。
通りの向こうで騒ぎが起きている。
騎士達と、ならず者の騒ぎだ。
この街では日常茶飯事のことだ。構わずわたしは歩き出した。
この世に正義などない。
もしあったなら、両親は『狂人』に殺されることなく、今も元気でいるはずだ。
わたしは殺し屋にならずに済んだはずだ。
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