第64話 俺への相談
翌日。
昨日は、つやのさんの相談にのることを決めた俺。
とはいうものの、朝になってみると、春百合ちゃんのことで頭が一杯になっていた。
全体的には、今世での春百合ちゃんの想いが、俺の心を春百合ちゃんの方へ動かしつつある。
しかし、一方では、前世の浮気のことがまだまだ心に残っていた。
昨日の夜の時点では、それをなんとか抑えようとする努力が少しずつ実を結んできているように思っていたのだが。今日になると、そのつらく、苦しい気持ちが、時々であるが湧き上がってくる。
想像以上に俺の心は痛んでいるようだった。
でも今世の春百合ちゃんが、俺のことを想っている以上は、今すぐにでも心を切り替えて、春百合ちゃんと新しい関係を構築していくべきなのだが……。
「二日間の時間」
俺たちは、この二日間、お互いに、あいさつ以外の言葉を話しかけることを自重することにしていた。
明日も自重することになると思う。
春百合ちゃんにとっては、毎日俺に対して、「好き」と言い続けていたので、それが言えなくなるというのは、つらいことだと思う。
俺も毎日言われていた「好き」という言葉が。たった一日だとはいっても言われなくなったので、寂しい気持ちがしていた。
思えば、幼稚園や学校にいる時は毎日、「好き」だと言われていたのだった。
今思うと、俺は、その言葉を言われることによって、力をもらっていた。
俺の想像以上に、春百合ちゃんの「好き」という言葉は俺の心の中で大切な言葉になっていたということだろう。
この日は、どこか自分の心の中に力が入らないなあ、と思って過ごした。
そして、放課後。
春百合ちゃんは美術部の部活で、俺は帰宅部。
しかし、俺はこれからつやのさんの相談を受けなくてはならない。
春百合ちゃんのことから一旦は心を切り替えて、待ち合わせ場所の喫茶店に向かう。
喫茶店の前には、集合時間の五分ほど前だったが、つやのさんがいた。
「ごめん。ちょっと待たせたかな? 待たせていたごめん」
俺がそう言うと。
「ううん。今来たところ。気にしないで」
とつやのさんは応えた。
高校生になって、美しさが増してきている気がする。
中に入ると、心地のいいクラシック音楽が流れている。
つやのさんと俺は、窓側の席に座り、それぞれ紅茶を頼んだ。
紅茶が運ばれてくると、俺たちはそれぞれ紅茶を一口ずつ飲んだ。
「ありがとう。今日は時間を取らせてもらって」
「いや、それは構わないよ。悩みがあったら相談してくれって言ったのは俺だし」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
つやのさんはそう言った後、紅茶を飲む。
そして、話をし始めた。
「わたし、高校に入ってすぐに好きな人ができた。一目惚れだった。少し気難しくて話しかけにくいイメージがある人だったんだけど、話してみると、そのまじめな人柄が伝わってきた。その姿勢に好感を持つようになった。そして、女子と今まで付き合ったことがなくて、現在も付き合っている女子はいないという。古沼くんのように、わたしを含めた女子と付き合ってきて、しかもそのすべてを捨ててしまような男子とは付き合いたくないと思っていたけど、古沼くんはそういう意味でも理想的だった。それが、ますますわたしをその人に夢中にさせることになったの。わたしはだんだん、その人と恋人どうしになれたらいいなあ、と思うようになってきた。でも告白する勇気はでないの」
俺は話を聞いて、今日のつやのさんは、その男子に告白する勇気を俺からもらいにきたのではないだろうかと思った。
だとすれば、勇気づけてあげたい。
「それだけ好きになったのなら、その想いを一生懸命伝えれば、きっとその人に想いが通じると思う」
「でも……。わたしは、古沼くんに振られてしまった。しかも、二人だけの世界にまで入った後で振られてしまった。こういう女子を受け入れてもらえるのだろうか? 告白されるだけで迷惑じゃないだろうか? そう思うと、こちらから告白するのは失礼だと思うようになってしまったの。でも、わたしはその人のことが好き。わたし、どうすればいいのかわからなくなってしまったの。夏居くんとは高校も違うし、迷惑じゃないか、と思ったんだけど、相談できるのは、夏居くんしかいないの。ごめんなさい」
つやのさんはつらそうに言った。
目からは、涙がこぼれてきている。
俺は一生懸命アドバイスをしてあげなければ、と思うのだった
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