【2023年12月4日】Web小説『キクナの怨』の第三話
ペンネームの由来だけでこんな文章量になるとは思えませんでしたが、好き勝手に書いたって構いませんよね。だって、遺言書なのですから。
前の話で、私がどういう子供だったのかは、半分ほど説明できたと思います。今日は、もう半分を書こうと思います。
私は小学生になっても、容姿も器量も悪い子供のままでした。ですから、必然的にいじめられることとなりました。
ところが、周りの人間は私と違って成長していきました。ですから、私をいじめる方法も、進化していきました。
ただ幼稚な言葉を投げつけるのではなく、私の物を盗ったり、隠したり、壊したり、私を無視したり、給食にゴミを入れたり、上履きを泥まみれにしたり……。段々と、やり方が陰湿なものになっていったのです。それも、誰がやったと分からないようにしたり、私の不注意で片付けられるようなものにしたりと、巧妙な手口を使ってくるようになったのです。
もちろん、私もそこまで馬鹿ではありません。誰がやったのか、大体の見当はつきました。
でも、それを指導者である先生に訴えても、無駄でした。「お前のような奴にそんな権利があるとでも思っているのか」、「お前のような可愛げのない奴が一々問題を訴えてくるな」、「お前が我慢していれば何も問題はないのだから黙っていろ」。そんな目で、私を見つめてくるのです。まるで、私に非があるかのように。
そして、私はいつしか、先生という立場の人間に不平等を訴えるのをやめました。
諦めたのです。解決の糸口など無いのだと。
私が私である限りは。
それを察したのか、周りはどんどん増長していきました。直接的な悪口も復活し、またブスだの、根暗だの、臭いだの、気持ち悪いだのと言われるようになりました。
私はゴミ箱よろしく、そんな汚い言葉たちを無言で呑み込み続けていましたが、そんな中で、特に印象に残った言葉があります。
「お前の苗字の菊ってさ、人が死んだ時に飾る花なんだろ。丁度いいな。お前、辛気臭くて葬式みたいな奴だもんな」
誰が言い始めたかは覚えていませんが、とても強く記憶に残っています。普段から「あいつ」とか「あれ」とか「あのゴミ」とか呼ばれていましたから、悪口と言えども名前と紐付けられていたことが理由でしょうか。それとも、それからしばらくの間、「菊女」、「ゴミ菊」と呼ばれていたことが理由でしょうか。
定かではありませんが、私はその時、容姿と器量に加えて頭も悪かったので、悪口の意味がよく分かりませんでした。なので後日、独りでぼちぼちと通うようになった図書室で、菊の花について調べることにしました。
ちなみに、私が本を読むようになったのは、この頃からです。友達がいないゴミ箱だったので、独りで本を読むことくらいしか楽しみがありませんでしたから。
調べるのに用いたのは、確か図鑑だったと思います。その説明文には、確かに菊の花は墓や仏壇——死者に供えるものだと書かれていました。
しかし、同時にこんなことも書かれていたのです。
〝死者への供え物として用いられている為、良くない印象を受ける人がいるかもしれませんが、実は菊の全体の花言葉は「高貴」、「高尚」、「高潔」。良くない意味などではなく、むしろ気高く品のある志という意味合いを持っているのです。中でも、最もポピュラーである白い菊は「真実」、「慕う」、「誠実な心」という、これまた品のある、まさに清白な花言葉を持っています〟
この、清白という言葉が、私の中に強く焼き付きました。
「菊女」、「ゴミ菊」などと呼ばれていましたが、私の苗字に使われている菊は、それはそれは誇り高き、清白な花だったのです。それも、見た目の美しさなどとは無関係に、気高き志を謳っている、清白な花だったのです。
それ以来、私は自分の苗字に誇りを持つようになりました。心美などという押し付けられたエゴにまみれた醜悪な名前よりも、菊名という苗字が心の支えとなったのです。
気高く、誇り高き、清白な菊。それが自分なのだ。見た目は関係ない。いかに醜い容姿をしていようと、心は気高く、誇り高く、清白で在ろう。自分をゴミ箱扱いして虐げてきた薄汚い連中とは違う、清白な菊のような人間で在ろう。そう心掛けるようになったのです。
無論、何年経っても環境は、私の立場は変わりませんでした。中学生になろうと、高校生になろうと、私は教室の隅に追いやられて、ものも言えず、やり返すこともできず、淡々と他人の吐き出す汚物を呑み込み続けるゴミ箱で在り続けました。
しかし、心の中では、ずっと自分に言い聞かせていました。
私は清白な菊なのだと。
あんな薄汚い連中とは違う、気高き、誇り高き、清白な菊なのだと―――。
故に、私はこう在りたいという願いを込め、
〝
というペンネームを名乗ることにしたのです。
一段落したので、続きはまた明日書きます。
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