「正直者ボーイ」
お題:かっこいいむきだし
正直者ボーイ
――なんでも思ったことをずけずけ言って相手を傷つける……それは「サバサバ系」にあらず。ただの嫌な奴である――
そんな言説を、ネットで聞いたことがあるような気がするが、こいつは一体どっちだ……。
「ねえ、こんなぼろいアパートに住んでいるのかい?早く引っ越せばいいのに」
今年大学に入学し、ようやっと生活に慣れた6月のこと。俺は同じ講義でよく隣になるFという男と仲良くなった。ふわふわとした雰囲気に、質のいい服装。よくよく話してみて、合点がいった。Fは金持ちの息子なのだ。どうりで苦労知らずな雰囲気だと思った。家が貧乏で、奨学金を何とか借りて通学している俺とはえらい違いだ。
しかしなぜだか気が合った。独り暮らししたてのボロアパートの、初めての客人に、選ぶくらいには。
「うわ、なにこれ。同じ味の缶詰ばっかりじゃないか。飽きるでしょ?もっといろいろ食べなよ」
こいつは本音しか言わない。到着してからというもの、俺の部屋に文句をつけてばかりいる。……うるさいな。金があればとっくに引っ越してるし、いいもん食ってるよ、この野郎。
俺はため息をつきながら相槌を適当に打って、ペットボトルのお茶をだす。机がないから、床に2本、どんと置いた。
「ありがとう。あ、そうだ。今度講義の後、どこかへ食べに行こうよ。それからカラオケも行ってみたいな」
Fは回転寿司もカラオケも経験したことがないそうで、俺に連れてけとよくせがんでくる。
「なんだよ、もっと他の奴を誘えばいいだろ?なんで俺なんかといつも」
「なんで?君と遊ぶのが一番楽しいからだよ。ねえ、君は退屈なの?」
こいつはいつも正直で、ひねくれた自分とは真逆の存在だとつくづく感じる。だから俺はFのことを、どうやったって嫌いには、なれなかった。
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