「物置小屋」

お題:知らぬ間の牢屋


物置小屋



いつのまにやら犯罪者。どうしてこうなった。


あたしは冷たいコンクリート製の簡素な独房で目が覚めた。周りを見渡しても誰もいない。約3畳ほどの狭い独房のほかに、同じ間隔で区切られた部屋が見えるのだが。「おーい」「だれかー」。声を出しても返事がない。人の気配もないので、この空間は自分ひとりしかいないのだろうと見当をつけた。


薄暗い部屋の突き当りにドアらしきものが見える。ここが出口なのだろうが、わからない。あたしはここに来るまでの記憶がないのだ。気が付けばこの牢屋に寝転がっていて、ことの経緯がわからない。記憶喪失ならば、犯罪者として裁けるのだろうか?なんとかごまかして釈放されないかな。何も覚えちゃいないので、どうにも楽天的に考えてしまう。だって何も悪いことしてないんだもん、あたし。おぼえてないけど。


ガチャン


部屋の奥から重い金属がこすれる音がして、間もなくコツコツと足音。暗くてよく見えないが、どうやら人が来たらしい。


「ああ、起きていたのか」

顔がよく見えないけど、スーツを着たおっさんみたいな感じだ。

「気分はどうだ?話せるか?」

「……のどがかわいた。そんで、トイレも行きたいんだけど……」


ほとんど反射的にあたしは返事をしていた。なにせ起きたばっかりでなにもわからない。ここはどこ?とか悲壮感たっぷりに訴えるのも面白いかもしんないけど、あたしはとにかく目先の要求を訴えた。


「ふっ……。出ろ。これからはずっと太陽の下で暮らせるぞ」

おっさんは独房の錠を開けてあたしの腕を乱暴につかんで引き寄せた。あいたた、乱暴にしないでったら。

「しかしそっくりだ。王女がまた暗殺されちまったからな。クローン体をいくつも保存していてよかった。2つでも3つでもスペアは持っとくもんだな。くく、これで反乱軍のやつらも大義名分を失っておとなしくなるだろうよ」


あたしは起き抜けのぼんやりした頭でおっさんの声を聴いていた。

あたしは今日から、「お姫様」になるらしい。クローンの正しい使い方だそうだけど、あたしわかんないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る