西都リイチ掌編小説集「トワイライト紙片」
西都リイチ
「宙ぶらりんスパイ」
お題:信用のない出会い
宙ぶらりんスパイ
「あんた、言っとくけど変な気起こしたら承知しないからね」
金髪ロングヘアーに青のカラコンをつけ、赤いドレスをまとい派手なファーをかけたいで立ち。目の前の女はいかにも!なヤンキー的台詞を吐きやがった。見事見事。
「うるせえな、誰がお前なんか狙うんだよ。こっちこそ願い下げだよ」
いかにもな女につられて、こっちもテンプレ的買い言葉をつい返してしまった。悔しいが、どうにも相手の調子に引っ張られてしまう。もっとおしとやかな女だったなら、俺だってこんな乱暴なコミュニケーションは取らないはずなんだが。相手に合わせて俺の攻撃性が出てしまったようだ。
「で、今回のミッションはなに?さっさと終わらせて帰るわよ」
「ああ……」
女の高圧的な言い方は気になるが、俺はボスからの支持を伝えた。マフィアの極秘パーティーにカップルとして潜入し、情報を集めてこいとのことだ。
そう、俺は……俺たちは派遣スパイだ。正式なメンバーでないが、過去にスパイ経験のあるものを登録をしておき、臨時に派遣される仕組みが最近できた。俺は小さい赤ん坊の世話をしなくてはならないから、スパイの仕事から過去に足を洗った。しかし、実際は何かと物入りだ。フルタイムで働けないし、俺みたいな半端物はどこも雇っちゃくれない。とすると、派遣で再びスパイ業に手を染めなきゃ生きてはいけなかったのだ。はあ、仕方ない。チビたちを食わせなきゃならんし、世話も必要だ。35歳シングルファザーはつらい。堅気でないなら、なおのこと。
「ふうん。軽い仕事ね。さっさと行きましょ」
女の言葉に現実に戻された俺は、借り物のタキシードの襟を正した。パーティー参加客に見えるよう、華やかな衣装が必要だった。俺は着慣れないシルクの質感に戸惑いながらも、ミッションの相方……赤いドレスの女スパイをエスコートしながら地下の会場へと足を向けた。
「しかし、お前みたいな女が派遣スパイだなんて世も末だな。若いんだからもっと他に仕事あるだろうに」
ははん、と馬鹿にしながら女に話しかけると、相手はこうだ。
「だって、おばあちゃんの治療費がたくさん必要なんだもん」
…スパイってつらい。俺もお前も。
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