三題噺「小さな先生」
亜鉛とビタミン
小さな先生
「穀物が、世界一の国はどこでしょう?」
小さなホワイトボードの前で、額に浮き出る汗を手で拭いながら、センセイが言った。俺はピシッと真っ直ぐに手を上げる。地理の問題はお手のものだ。中学の頃からずっと得意だった教科だ。
「はい、健太くん」
センセイが俺を指した。
「アメリカです」
俺が自信たっぷりに答えると、センセイは腕組みをして、悩ましそうな表情をした。
「うーん、そうだなぁ」
「違うんですか?」
俺はセンセイに尋ねた。違う、と言われたら違うのかもしれない。
センセイは天井を見上げ、はたまた首を傾げ、しばらく考え込んだ。
「分かんない!」
センセイは、潔く言い放った。表情も、パッと晴れやかで潔い。分かんないものは、誰しも分かんないのだ。仕方のないことである。
「分かんないか! ほら、こっち来てみろ」
俺はセンセイ——正確には、先生の卵の卵だが——の甥を手招きし、膝の上に座らせる。ポケットからスマートフォンを取り出し、穀物の国別生産量を検索してみせる。
「あ、すごい!」
センセイはパッと笑った。「おじさん、何でも知ってるね」
「センセイってのは、物知りじゃなきゃいけないんだぞ」
俺はおどけてセンセイに言う。センセイは、スマートフォンの画面を興味津々に見つめていた。その目はキラキラと希望に満ちている。
センセイの素直で純粋なところは、本当の先生として見習うべきかもな。
親戚バカかもしれないが、俺はそう思うのである。
三題噺「小さな先生」 亜鉛とビタミン @zinc_and_vitamin
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