三題噺「最近の若者は」
亜鉛とビタミン
最近の若者は
コクホウです、先輩。と、編集局の新入りが言った。国宝? 新しい取材の話だろうか。そういえば先週、取材のネタ探しを頼んであったような気がする。
「どこ? 京都? 奈良? 遠くは嫌だなぁ」
と、俺は答える。ここは東京某所の小さな出版社。出版不況のご時世とあって、遠出の経費はなかなかの痛手だ。下手すれば自腹を切ることにだってなりうる。その上、最近は腰にボロが出始めていた。腰痛が厄介な癖になっていて、新幹線の柔らかい椅子に一時間も座っていたら、それだけで行動不可能になってしまうのだった。
「え、関西ってそんなに遠いですかね?」
と、新入りは首を傾げた。まだまだコイツは、他人の気持ちを慮れるほど大人じゃないようだ。それもそのはず、彼はつい半年前まで、経営学部のチャランポラン学生だったのである。オールで飲み通せるような自分の体力で物事を語るから、全くいけない。俺を何歳だと思ってやがる。
「遠いさ。少しは経費のことを考えてくれ。取材先なら、関東一都六県だ」
俺は新入りを嗜める。社会人三十年目を舐めてくれるなよ。
「先輩、何の話をしてるんですか?」
新入りは眉を顰めて言った。
何の話って、取材の話だろうが。カッコつけて言えば、ビジネスの話だ。やれやれ、話が通じていないのだろうか。困ったものだ。学生気分が、まるで抜けてない。
「俺、今から社用車を借りるので、報告に来ただけですよ」
は。報告? コイツ、報告のこと、コクホウって言ったのか? ああ、頭がクラクラしてきた。マスコミ戦士たるもの、そんな適当な言葉を使うなよ。
全く、これだから最近の若者は。
三題噺「最近の若者は」 亜鉛とビタミン @zinc_and_vitamin
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