95 幸運の負債



山田氏は、町で最も幸運な男だった。宝くじを買えば必ず当たり、ギャンブルに行けば常に勝利。彼は一夜にして億万長者になり、すべてが順風満帆だった。


しかし、ある日、彼のもとに一通の奇妙な手紙が届いた。


「拝啓、山田様。あなたの幸運は弊社からの融資により成り立っています。利子の支払い期限が迫っておりますので、至急お支払いください。」


山田氏は冗談だと思った。しかし、その日を境に、運は急速に彼を見放した。カジノでは負け続け、株も大暴落。彼の財産は見る見るうちに消えていった。


あわてた山田氏は手紙の送り主を探した。町の外れにある古びたオフィスを見つけ、恐る恐る中に入った。


「山田さんですか?」

老人は微笑みながら言った。

「運には価格があるのです。幸運を享受したいなら、対価を払わねばならない。」


山田氏は驚いて言った。

「そんな……私はただ運が良かっただけだ!」


老人は静かにうなずいた。

「その運も、誰かから借りたものかもしれないですね。」


山田氏は考えた末、自らの運を分け与える契約を結んだ。すると不思議なことに、彼の不運は次第に他人の幸運となり、再び町に活気が戻った。


彼は気づいた。運は取引されるものであり、幸運もまた借金の一形態であることを。そして彼は、新たなバランスの中で穏やかに暮らすことを選んだのだった。

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