85 遺品の家に
古びた家の中で、壊れた時計が静かに囁く。
その針は前の家主の亡くなった12時37分に止まり、家の中には遺品が散乱していた。若き女性は、この家を受け継いだばかり。彼女は遺品の中に隠された物語に魅了され、特にその時計に強く惹かれた。
ある夜、彼女は時計の針を動かしてみることにした。針が12時38分を指すと、家全体が不気味な音を立てた。そして、彼女は恐ろしい光景を目の当たりにした。家の中の遺品たちが動き出し、彼女に向かってきた。
古い手紙は空中に舞い上がり、色褪せた写真は壁から飛び出し、クローゼットの衣服は踊り始めた。彼女は恐怖に震えながらも、時計の針を元に戻そうとした。しかし、針は動かなかった。
時計は答えた。
「私たちは、あなたが来るのを待っていた。あなたは私たちの新しい主だ。そして、私たちはあなたの過去から来た。」
女性は混乱し、自分の過去を思い出そうとした。すると、彼女は理解した。これらの遺品は、彼女が忘れていた幼い頃の思い出だった。彼女は時計の針を動かしたことで、過去の記憶を解き放ったのだ。
遺品たちは彼女に感謝し、再び静かになった。時計の針も動き出し、時間は再び流れ始めた。女性は涙を流しながら、家の中を見回した。家はもはや古びた家ではなく、彼女の温かい家族の記憶で満たされていた。
しかし、彼女が気づかなかったのは、時計の針が動くたびに、家の中の影が一つ増えていたことだった。そして、彼女が眠りについた夜、家の中で新たな足音が響き始めた。時計の針は止まらず、影は増え続け、家は再び古びた姿に戻り始めた。
絵の中の家に灯りがともっていた。
それは彼女が帰るべき場所を示していた。しかし、それは彼女を呼び戻すための罠だった。遺品たちは、彼女に家の真の価値を教える代わりに、彼女の魂を求めていたのだ。
そうして、
彼女もまた、遺品の一つになってしまった……。
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