32 子どものロボット


「お母さん、今日は何の日?」

「今日はね、特別な日なの。お父さんがずっと作っていたロボットがやっと完成したのよ」

「ロボット? すごい! 見せて見せて!」

「じゃあ、お父さんの工房に行ってみようか。でもね、このロボットはとっても秘密なの。だから誰にも言っちゃダメだよ」

「うん、わかった。秘密にするよ」


母親と手をつないで、子どもはお父さんの工房に向かった。

工房の扉を開けると、そこには大きな金属の箱があった。箱の中からは電気の音が聞こえてきた。


「お父さん、お父さん、見せて!」

「おお、やっと来たか。よし、ではお披露目しよう。これがぼくの最高傑作だ。世界で一番賢くて強くて優しいロボットだ」

「わぁ、すごい! どんなことができるの?」

「なんでもできるよ。話もできるし、歌も歌えるし、勉強も教えてくれるし、お手伝いもしてくれるし、お友達にもなってくれるよ」

「へぇ、すごいなぁ。名前はなに?」

「名前はね、ボクちゃんだよ。ぼくと同じだ」

「ボクちゃん? かわいい名前だね。ボクちゃん、こんにちは」

「こんにちは、よろしくね」


箱の中から、ロボットの顔が出てきた。ロボットは子どもと同じくらいの大きさで、お父さんにそっくりだった。ロボットは子どもに笑顔で手を振った。


「ボクちゃん、ぼくと一緒に遊んでくれる?」

「もちろんだよ。ぼくは君のお友達だからね。ぼくは君が楽しいときも悲しいときも、いつもそばにいるよ」

「うれしいなぁ。ありがとう、ボクちゃん。ありがとう、お父さん。ありがとう、お母さん」

「どういたしまして。これからは家族がひとり増えたね。みんなで仲良く暮らそうね」

「うん、そうしよう」


子どもはロボットと抱き合って喜んだ。母親は夫と目を合わせて微笑んだ。父親は満足げに頷いた。

それは、非日常が日常の、ほのぼのした一場面。


不妊の妻と結婚した夫の、最大の愛情だった。

一人目よりよくできた。

でも、子を持って初めて分かった。

できが良くないほど可愛い、と。

そうして二人目も可愛いのだ、ということに。

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