164日目 異世界-2
「辞め辞め、あいつの話は辞めだ!」
「あら、そんなこと言って、酒場で情報が入ってくるのを待ってたんじゃない?」
奥さんがタンチさんに言う。
「はぁ!? バカ言ってんな!! 酒でも持ってこい」
「はいはい」
奥さんが、苦笑いをし、部屋を出る。
「タンチさん……午前中ですよ?」
「いいんだよ、もう第六戦線での狩りはおしまいだろ?」
「まぁ、そうですけど……」
「おいデクの棒、構わないだろ?」
「はい。問題ございません」
タンチさんにローシュさんが答える。
◇
「これだ、これ」
ゴトッ!
タンチさんは酒を飲みながら、テーブルの上に石を置く。
「魔鉱石ですか?」
「そうだ。どっかの誰かさんの殺戮の罠でよ、魔物が減っただろ?」
「はい……まぁ」
「その報酬ってわけだ。
これからしばらくの間、採れた魔鉱石がお前のとこにもいくぞ」
「え? だって僕、これから外界へ行くので第六戦線は行きませんよ?」
「なんだ、聞いてねぇのか?
前衛の奴らが奥地へ行って、魔鉱石が採れるようになったのも罠のおかげだろ。
だから、しばらく魔鉱石がもらえるんだよ。
おいデクの棒、ちゃんと説明しておけよ」
「私は護衛ですので」
ローシュさんは相変わらずの無表情で答える。
「てことは、魔鉱石がまだもらえるんですね」
「だから、そう言ってんだろ。
とりあえず飲めよ」
タンチさんが酒を進めてくる。
「はい。ありがとうございます」
「どうぞ」
奥さんが酒を持ってきてくれる。
「にしても、外界へ行くって意思は変わらねぇのか?」
「はい。そのために第六戦線に来たわけですし」
「ま……せいぜい死なないようにな」
タンチさんは眉間にシワを寄せ、酒を飲みながら言う。
「そうね。親も心配するわよ」
奥さんも心配してくれる。
「いや……両親はすでに他界してますので」
タンチさんと奥さんは一瞬固まる。
「そうだったのね……ごめんなさい」
奥さんはすぐに謝ってくる。
「いえ。でも、どっちにしろ死ぬつもりはないですよ。
仲間の意識を戻すために行くわけですからね。
死んだら意味ないですし」
「死ぬつもりで行くやつなんていねぇだろ。
たく……こんなシケた話がしたかったわけじゃねぇんだけどな。
おい、デクの棒。お前も飲めよ」
「はい。いただきます」
「「え!?」」
僕とタンチさんは思わず大きな声を出す。
てっきり、護衛だからと断ると思っていた。
「お……おい……俺から飲めとは言ったが、護衛なんじゃねぇのか?」
「はい。しかし、それは今朝までの話です。
すでに護衛任務は終了しました」
「あれ? でもローシュさん、さっき護衛があるからって座りませんでしたよね?」
「そんなこともありましたね」
え?
何?
冗談的な?
ローシュさん……よくわからない人だ。
「まぁいい……とっておき、一番つえぇ酒を持ってきてやるよ」
タンチさんはニヤリと笑う。
□□□
「ぐがぁ……ぐがぁ……」
まだ昼を過ぎたばかりだが、タンチさんはいびきをかいて寝てしまった。
僕は寝ているタンチさんを寝室へ運ぶ。
「久しぶりに楽しかったみたいね。
本当にありがとうございます」
奥さんが頭を下げる。
「いえ、こちらこそお世話になりましたので」
「片付けてきますので、ゆっくりしていってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
僕はリビングへ戻る。
「ローシュさんも全然酔わないんですね」
「えぇ、我々【聖騎士】はある程度【毒耐性】も持っていますので」
「にしても、大丈夫ですかね……?」
「外界が心配でしょうか?」
「いえ、昨日ミドーさんを……」
僕は昨日ミドーさんを瀕死にまで追い込んでしまった。
騎士団の方々にこれからお世話になるのに、最悪のスタートだろう。
「問題ないでしょう。あれはミドーに責任があります」
「そ、そうでしょうか……」
にしてもやり過ぎたのは間違いないよな。
「しかし、狭間様があれほどの力をお持ちだったとは……
私が護衛する意味はあったのでしょうか?」
「いや……護衛が必要というよりは、シトン様の何かしらの意図があったのでしょうね」
「え? そうなんですか?」
「申し訳ありません……だとしても私が考えることではありませんね。
少し飲み過ぎたようです。
では、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ」
シトン様の意図か……
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