164日目 異世界-2

「辞め辞め、あいつの話は辞めだ!」

「あら、そんなこと言って、酒場で情報が入ってくるのを待ってたんじゃない?」

奥さんがタンチさんに言う。


「はぁ!? バカ言ってんな!! 酒でも持ってこい」

「はいはい」

奥さんが、苦笑いをし、部屋を出る。

「タンチさん……午前中ですよ?」

「いいんだよ、もう第六戦線での狩りはおしまいだろ?」


「まぁ、そうですけど……」

「おいデクの棒、構わないだろ?」

「はい。問題ございません」

タンチさんにローシュさんが答える。









「これだ、これ」

ゴトッ!

タンチさんは酒を飲みながら、テーブルの上に石を置く。

「魔鉱石ですか?」


「そうだ。どっかの誰かさんの殺戮の罠でよ、魔物が減っただろ?」

「はい……まぁ」


「その報酬ってわけだ。

 これからしばらくの間、採れた魔鉱石がお前のとこにもいくぞ」

「え? だって僕、これから外界へ行くので第六戦線は行きませんよ?」


「なんだ、聞いてねぇのか?

 前衛の奴らが奥地へ行って、魔鉱石が採れるようになったのも罠のおかげだろ。

 だから、しばらく魔鉱石がもらえるんだよ。

 おいデクの棒、ちゃんと説明しておけよ」

「私は護衛ですので」

ローシュさんは相変わらずの無表情で答える。


「てことは、魔鉱石がまだもらえるんですね」

「だから、そう言ってんだろ。

 とりあえず飲めよ」

タンチさんが酒を進めてくる。


「はい。ありがとうございます」

「どうぞ」

奥さんが酒を持ってきてくれる。


「にしても、外界へ行くって意思は変わらねぇのか?」

「はい。そのために第六戦線に来たわけですし」


「ま……せいぜい死なないようにな」

タンチさんは眉間にシワを寄せ、酒を飲みながら言う。

「そうね。親も心配するわよ」

奥さんも心配してくれる。


「いや……両親はすでに他界してますので」

タンチさんと奥さんは一瞬固まる。

「そうだったのね……ごめんなさい」

奥さんはすぐに謝ってくる。


「いえ。でも、どっちにしろ死ぬつもりはないですよ。

 仲間の意識を戻すために行くわけですからね。

 死んだら意味ないですし」

「死ぬつもりで行くやつなんていねぇだろ。

 たく……こんなシケた話がしたかったわけじゃねぇんだけどな。

 おい、デクの棒。お前も飲めよ」


「はい。いただきます」


「「え!?」」

僕とタンチさんは思わず大きな声を出す。

てっきり、護衛だからと断ると思っていた。


「お……おい……俺から飲めとは言ったが、護衛なんじゃねぇのか?」

「はい。しかし、それは今朝までの話です。

 すでに護衛任務は終了しました」

「あれ? でもローシュさん、さっき護衛があるからって座りませんでしたよね?」


「そんなこともありましたね」

え?

何?

冗談的な?

ローシュさん……よくわからない人だ。


「まぁいい……とっておき、一番つえぇ酒を持ってきてやるよ」

タンチさんはニヤリと笑う。


□□□


「ぐがぁ……ぐがぁ……」

まだ昼を過ぎたばかりだが、タンチさんはいびきをかいて寝てしまった。

僕は寝ているタンチさんを寝室へ運ぶ。

「久しぶりに楽しかったみたいね。

 本当にありがとうございます」

奥さんが頭を下げる。


「いえ、こちらこそお世話になりましたので」

「片付けてきますので、ゆっくりしていってくださいね」


「はい、ありがとうございます」

僕はリビングへ戻る。


「ローシュさんも全然酔わないんですね」

「えぇ、我々【聖騎士】はある程度【毒耐性】も持っていますので」


「にしても、大丈夫ですかね……?」

「外界が心配でしょうか?」


「いえ、昨日ミドーさんを……」

僕は昨日ミドーさんを瀕死にまで追い込んでしまった。

騎士団の方々にこれからお世話になるのに、最悪のスタートだろう。

「問題ないでしょう。あれはミドーに責任があります」


「そ、そうでしょうか……」

にしてもやり過ぎたのは間違いないよな。

「しかし、狭間様があれほどの力をお持ちだったとは……

 私が護衛する意味はあったのでしょうか?」


「いや……護衛が必要というよりは、シトン様の何かしらの意図があったのでしょうね」

「え? そうなんですか?」


「申し訳ありません……だとしても私が考えることではありませんね。

 少し飲み過ぎたようです。

 では、今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ」

シトン様の意図か……

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