33日目 異世界 前編
【風魔法】を撃ち続けていたら、眠ってしまったようだ。
病室で起きている時間はそれほど長くはない。
6〜8時間くらいだろう。
意識も完全にはっきりするわけではないので、だいたいは気がついたら寝ている。
いつもの木造宿屋。
やっぱりやや頭がぼーっとする。
ただ、病室で目が覚めたときよりはだいぶマシだ。
そうだ、ステータス確認。
狭間圏はざまけん
【――――】
HP:27/27
MP:96/96(↑+39)
SP:2/2
力:8
耐久:4
俊敏:4
器用:5
魔力:4
神聖:3
【魔力操作:Lv2】【炎魔法:Lv1】【風魔法:Lv8(↑+3) エアカッター:Lv1】
凄まじい上昇だ。
病室ではやることがないので、ひたすら【風魔法】を鍛えることができる。
この調子だと、一般人くらいのMPならあと数日でいきそうだ。
今日もカルディさんに鍛えてもらおう。
「よし!」
自分の頬を両手でパシッっと叩く。
ぼーっとする頭をしゃっきりさせよう。
僕は宿屋を出て、足早に道具屋へ向かう。
道具屋のカウンターにはカルディさんが肘をついて座っていた。
「やぁ、お待ちしていましたよ」
「はい! 今日もよろしくお願いします!」
僕は元気よく挨拶をする。
カルディさんは無言でにっこりと微笑むと、中庭へ出る。
「あれ? 今日はギルドへ行くんじゃないんですか?」
「えぇ、既に行ってきました」
カルディさんはそう言うと、中庭の中央を指差す。
そこには、既に角が折られ、手足が縛られたホーンラビットがいた。
「オォ! ありがとうございます」
さすがカルディさんだ。
仕事が早いな。
「では今日も【エアカッター】を撃ち込んでください」
「はい! 【エアカッター】! 【エアカッター】! 【エアカッター】!…………」
僕は昨日と同じように、【エアカッター】を撃ち込んでいく。
「シギャァッ!!」
今日のホーンラビットもお怒りの様子だ。
相変わらず、動物虐待のような光景だが、こちらの世界ではごく当たり前のことらしい。
「ちょっと待ってください。もう30発ほど撃ち込んでいますよね?」
「えぇ、そうですね」
「昨日消費したMPも完全には回復していないはずでは?」
カルディさんが、顎に手を当て、不思議そうに聞いてくる。
そうだった。
MP回復については、詳しくは話していなかったんだ。
「実は……」
僕は、日本ではMPが回復し続けること、【風魔法】を撃ち込み続けたことを伝えた。
「バカな!
そんなことが!?
……ありえない。
いや、しかし実際にまだMPが残っている……」
カルディさんは考え込んでしまった。
「……………………」
「……………………」
カルディさんはふと気がついたようにこちらへ向く。
「まだMPは残っているんですか?」
「はい、あと15発くらいは撃てると思います」
「!!」
またもや驚きの表情だ。
確かに、こちらの世界のMP回復速度からすれば、あり得ない計算だ。
「では、実際にMPが枯れるまで撃ち込んでみてください」
「はい、わかりました」
僕は、言われたとおり、【エアカッター】を撃ち込み続けた。
16発撃ち込み、
MP:1/97(↑+1)
となった。
おかげさまで、身体が鉛のように重い。
「……本当にMPが大幅に増えているようですね」
「はい、そうなんです」
「……威力も上がっていますね」
「【風魔法】のレベルも3ほど上がって8になったからでしょうか」
「!! なるほど!」
確かに、昨日より威力が上がっているように見える。
【エアカッター】を撃ち込んだ回数が多いこともあり、ホーンラビットは昨日より瀕死だ。
今解放したところで、動くことはできないだろう。
「しかし……【風魔法】まで……」
カルディさんはまた考え込んでしまったようだ。
「……すみません、疑っていたわけではないのですが、確認したかったのでMP切れまで撃ってもらいました。
身体が重いでしょう?」
「いえいえ、もともとMPを使い切る予定でしたので」
「いいえ、今日はMPを残してもらう予定だったんですよ」
「ぇ? そうなんですか?」
「えぇ、いや、今はその話はいいでしょう。
それより、MP回復の話、それから別の世界の話、この話は誰にも言わないほうが良いでしょう」
「そうなんですか?」
「えぇ、MPというのは貴重なものです。
事実が知れ渡ってしまえば、あなたを監禁してMPを有効に使おうとする輩が現れる可能性が高いです」
「……それは怖いですね」
「ですから、この話は内密にしておきましょう」
「了解です」
「よし、それでは休憩にしましょう」
カルディさんが、緊迫した表情から、笑顔に戻る。
「2階へ行ってお茶でも飲みながら、ステータスの確認をしましょう」
「はい! ありがとうございます!」
僕はいつものように元気良く答える。
そして、裏庭から道具屋へ入り、2階へ上がる。
カルディさんは、お茶を淹れてくれる。
道具屋の2階はロフトのようになっており、1階にお客さんが来れば、すぐに分かるようになっている。
カルディさんは、お客さんがいないときは、ここで本を読んだりくつろいでいるらしい。
カルディさんがお茶を入れてくれている間、僕はステータスを確認しておく。
狭間圏はざまけん
【――――】
HP:27/27
MP:1/97(↑+1)
SP:2/2
力:8
耐久力:4
俊敏:4
器用:5
魔力:6(↑+2)
神聖:3
【魔力操作:Lv2】【炎魔法:Lv1】【風魔法:Lv9(↑+1) エアカッター:Lv2(↑+1)】
今日は昨日よりもステータスが上がってる。
MPが増えて、攻撃回数が増えたからだろう。
「どうでした?」
カルディさんが、ティーセットを持ってきてくれる。
「MPが1、魔力が2、【風魔法】が1、【エアカッター】が1上がりました」
「素晴らしいペースですねぇ」
「ありがとうございます! これもカルディさんのおかげです」
カルディさんは、何も言わずに微笑み、お茶を飲む。
「あぁ、狭間さんのお茶ですが、私が飲んでいる通常のものではありません」
「そうなんですか?」
「えぇ、睡眠効果のある植物が入っています」
「睡眠効果……」
「えぇ、単純に飲めば急激な眠気がくるでしょう。
狭間さんのお話では、睡眠中に違う世界に行くようですので、意図的な眠りでもそれが可能かどうか調べる必要があると思いまして」
「なるほど、たしかにそれは重要ですね……」
そうか、たしかに昼寝でMPが全快になればさらに効率が上がるはずだ。
そう思い、僕はお茶を一口飲んでみる。
味は普通の紅茶だ。
美味しい。
カルディさんは紅茶にこだわりがあるのだろう。
ティーセットも統一されている。
二口目を飲もうとすると、急激な眠気が来る。
「……すみません、ちょっと横になります」
「もう眠気がきましたか」
僕はカルディさんに促され、ソファーに横になる。
「おそらく、状態異常耐性が何もないから、これだけ早く効いてしまったんでしょうね」
カルディさんの話が聞き終わるかどうかで僕の意識は無くなった……
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