32日目 異世界 前編

……どうやら眠っていたらしい。

そして、目が覚めると、そこは木造の古い宿屋だった。


やっぱりだ。

頭がややボーッとするけど、僕は異世界と日本を往復している。

日本での僕は、病院のベッドで寝ているんだ。

昨日は風魔法を撃ちまくった。


ステータスはどうなっているんだろう。


狭間圏はざまけん

【ーーーーー】

HP:22/27

MP:57/57(↑+35)

SP:2/2

力:7

耐久:4

俊敏:4

器用:5

魔力:3

神聖:3

【魔力操作:Lv2】【炎魔法:Lv1】【風魔法:Lv5(↑+3)エアカッター:Lv0(New)】


!!

凄い!

一ヶ月あれだけ頑張って殆ど上がらなかったステータスが、一日で上がっている。

新しい風魔法まで覚えたようだ。


夢じゃない……

どちらの世界も夢じゃないんだ……


僕は力強く拳を握る。

むこうの魔素をうまく利用すれば、異世界でも成長できる。

当面の目標は回復魔法の習得だ。

日本で回復魔法が使えるようになれば、身体が動くようになるだろう。


魔法の習得には、ある程度のステータスが必要だ。

けれど、必要なステータスは個人差があるので、一概にいくつとは言えないらしい。

僕の場合は、【炎魔法】のあとに【風魔法】を覚えたけど、これも人によっては違うらしい。

最初に【回復魔法】を覚える人もいる。

そのあたりは個人の能力によるんだろう。


まずは、道具屋へ行って情報収集だ。

僕は宿屋を出て、道具屋へ向かう。

この街は、まさに中世ヨーロッパという感じだが、ここの街は小さいので、土が固まっているだけの道だ。

大きな街に行くと、全て石畳になっているようだが。

宿屋の近くは、飲食店がいくつかある。

それも、安い宿にふさわしい、安い飲食店だ。

この世界の食事は、意外にも悪くない。

日本の食事に比べれば、遠く及ばないが、実際の中世ヨーロッパの時代よりははるかに美味いだろう。

特に、冒険者が携帯食料を持つため、保存食はそこそこ食える。

パンと干し肉だが、そんなに悪くない。


そして飲食店街を過ぎると、道具屋がある。

僕は道具屋の主人にもかなり助けられた。

最初に、筆記用具をいくつか買い取ってもらったんだ。

そして、そのお金で未だに生活している。

木造1階建ての道具屋に入ると、そこには主人のカルディさんがいた。

カルディさんは痩せ型の長身、180cmくらいあるだろう。

50代くらいのナイスミドルだ。

白髪が混じっているが、オシャレに黒髪に混ざっている。

この世界では珍しい眼鏡をかけて、知的な印象を受ける。


「やぁ、あなたですか。また珍しいものでも?」

「いや、手持ちの道具はあのとき全て売ってしまいましたので、持ってませんよ」

「あぁ、そうでしたね」


カルディさんは残念そうな顔をする。

手持ちは全部だって何度も言ったのに、未だに聞いてくる。

筆記用具が相当気に入ったんだな。


「ただ、それがまた手に入るかもしれません」

「何! どういうことです!?」


カルディさんがカウンターから身を乗り出して聞いてくる。


「いや、まだなんとも言えないんですが、【回復魔法】と【ストレージ】を習得できれば可能性があります」

「話が見えませんね。詳しくお願いします」


カルディさんには、僕が異世界から来たことを話してある。

筆記用具という不思議な道具に興味津々で、その道具の説明をするときに話したんだ。

カルディさんは、道具を見て僕が異世界から来たことをあっさり信じてくれた。


そして、そのときにある程度こっちの常識を教えてくれた。

ダイオンさんの宿屋も紹介してくれたんだ。


そして、今日本と異世界を往復できるかもしれないことについて話した。


「ほぉ! ほぉほぉほぉ!!」


やはり、カルディさんは興味津々だ。


「なるほど! なるほど!

確かに【回復魔法】が最優先事項になりますねぇ」

「はい、まず【回復魔法】を覚えて、身体が自由に動くようになったら、【ストレージ】で向こうのものを持ってこれる可能性が出てきます」


【回復魔法】は名前の通り、対象の傷を回復する魔法だ。

【ストレージ】というのは、盗賊系のスキルで、アイテムを自分専用の空間に保存できるというもの。

アイテムの出し入れができるのはもちろん、レベルによっては保存したアイテムに劣化が起きない。


攻撃魔法や攻撃スキルと違い、日常生活でも使うスキルなので、カルディさんから説明を受けたことがあるスキルだ。


この2つを習得することで、向こうの世界のアイテムをこっちに持ってくることができる可能性がある。

まぁ実際にやってみなければわからないが……


「それで、ステータスの底上げが必要だと思うんです」

「そうですねぇ、その通りです」


新しい魔法の習得には、それなりのステータスが必要だ。


「それなんですが、【風魔法】を使い続けることで、【風魔法】とMPの上昇は見られたんですが、魔力が上がらないんです」

「それはそうでしょう。

基礎ステータスは、魔力を持った生物を攻撃しなければ上がりません」


カルディさんは、中指でメガネを持ち上げながら教えてくれる。


「魔物ってことですか?」

「まぁ基本的にはそうなりますね。

ただ、人間も魔力を持っていますから、対人への攻撃でもステータスは上がります」


「いや、それはちょっとやめておきます」


強くなりたいとはいっても、流石に人に攻撃する気にはなれない。

しかも、僕のステータスでは、返り討ちにされることは間違いない。

もし協力してくれる人がいたとしても、あんまり人には攻撃したくないなぁ。


「そうですね、やめておくことをおすすめします」


カルディさんもそのへんは分かってくれている。

情報として、そういう方法があるということを教えてくれたんだろう。


「では魔物の討伐ですね?」


僕はワクワクしてきた。

平均を大きく下回るステータスでは、魔物の討伐など絶対に無理だった。

だから、この一ヶ月はひたすら【魔力操作】をしてきたんだ。

魔物の討伐ということは、ギルドへ行ってクエストなんかをこなすんだろうか。

その辺りは、あえて聞いてない。

ステータスが低すぎるし、下手に希望を持たないほうが良いと思っていたからだ。

でも、鍛えれば魔物討伐クエストができるかもしれない。


「う〜ん……どうでしょうね」


カルディさんが怪訝な表情をしている。


「魔物の討伐は無理ですか?」

「いや、今すぐには厳しいでしょうね。

ちょっとこちらへ来てください」


カルディさんは裏口から外へ出る。

僕もカルディさんのあとに続き、道具屋の裏庭へ行く。


カルディさんの自宅と道具屋の間には、小さな裏庭がある。

自宅の脇には小さな雨よけがあり、そこにはたくさんの薪があった。

そのうちの一つを取って、裏庭の中心へ置く。


「では、【エアカッター】をこの薪に使って見てください」

「はい、わかりました!」


僕は元気良く答える。

そうだ、新しく習得した【エアカッター】はおそらく攻撃魔法なんだろう。

この薪を真っ二つに切ってやる!


「【エアカッター】」


ザッ!

小さな音が鳴る。


「…………ぇ?」


【エアカッター】の名の通り、薪をカッターで傷つけた程度だ。

薪に少しだけ傷がついただけ。

これならナタを持って、振りかぶったほうが何倍も攻撃力がありそうだ。


「これって…………魔力が低すぎるってことですか?」

「そうですねぇ。加えて、【風魔法】のレベルも低いこと、さらには【エアカッター】自体が攻撃魔法というよりは、生活の中で使う程度の魔法なんです」


せっかく覚えた新しい魔法が、戦いでは使えそうにない…………


「普通に武器防具揃えて殴ったほうが早いですよね?」

「それもそうなんですが、今の狭間さんのステータスでは危険過ぎます」

「……………………」


「魔物討伐はしばらく無理でしょう」

「そうですか…………」


ぁー……

てことは、しばらく【魔力操作】の訓練だろうか。


「ただ、他にも方法があります」

カルディさんがメガネを持ち上げながら言う。

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