第11話 コラボ配信・教えてステラ先生!③ 説明回!
「さて、まずですが。三人はダンジョンとはどういう場所か知っておりまして?」
どこからともなく小さな教鞭を持ち出してそう口火を切ったステラの言葉に、「はい!」と元気よくヒナが手を上げた。
それに「ではどうぞヒナさん」とステラが答えを促すと、ヒナは自信満々と言わんばかりの表情で口を開く。
「なんかマナとかがある、よくわかんない場所です!」
『草』
『ヒナちゃん……』
『大雑把すぎるw』
『さすがにもうちょっとなんかなかったんか???』
そうして出てきた答えがあまりにもあまりだったためにコメントも流石にざわついてしまっていたし、リリとハルカも二人して呆れたような視線をヒナに向けた。
「えぇ……」
「自信満々に手ぇあげといて答えがそれなのはどうなんや???」
「うっ、視線が、視線が痛いです!」
二人のあほの子を見るような、というかようなではなくそのままあほの子を見る目に気づいたヒナは、その視線から逃れるように顔を隠して縮こまる。
そして問題を出したとうのステラはというと少しのあいだ
「まあおおむね正解ですわ!!!!!!!」
そうのたまった。
「は? いや何言うとんこの人」
「え、うそでしょ」
『そんなことある???』
『こんなてきとう解答がせい……かい……?』
『この人適当なこと言ってない?』
そのステラの言葉がよほど腑に落ちなかったのだろう、視聴者たちもリリもハルカも彼に猜疑の目を向ける。ちなみにヒナだけは「え、ほんとですか!?」と嬉しそうにしていた。
そんな彼女らに、しかしステラは「ちっちっち」と指を振って再度口を開く。
「ダンジョンとは何か。これはダンジョン発生から今現在に至るまで数々の研究者によってその解明に向けて研究がなされておりますが……現状、確実にそうといえるような仮説もなく、その正体を解明したと言えるような論文も発表されておりません。唯一分かっていることといえば、その空間の内部にマナがあることくらいでしょうか」
そこまで言って一度言葉を切って、「いえ、正確には違いますわね」とステラは続ける。
「正確に言うのであれば。ダンジョンにマナがあるのではなく、マナが自然的に発生する空間をダンジョンと定義したのです。
だからダンジョンには必然的にマナがあるし、逆に言えばダンジョンでない場所ではマナが自然に発生することはあり得ないのですわね」
『あー、なるほどな』
『ダンジョンじゃないところにはなんでマナがないんだろって思ってたけど逆だったのか』
『そういやそんな話聞いたことあったな……』
「ちなみにマナが発生する空間がダンジョンと今言いましたが、このマナの時間ごとに発生する量とその上限、すなわちダンジョンにおけるマナの総量というのはダンジョンごとに違いますわ。組合は、基本的にはこのマナの総量によってダンジョンの難易度ランクをEからAの五段階に分けているのですわ」
「それはつまり、そのマナの総量ってのが多い方がダンジョンの難易度が高いっちゅうことでええんか?」
「ええ。このマナ総量が増えれば、ダンジョンに発生するモンスターも比例して強いものが出現しやすくなる傾向にありますので。これはモンスターがマナを核とするからとか、あるいはその体がマナで構成されているからとか、いろいろと説があるのですが……まあとりあえず、それ故にマナ総量が多い方がダンジョン難易度も当然高い、というわけなのですわね」
そこまで言って、「ここまでは大丈夫でして?」と三人に声をかけるステラ。少女たちが首を縦に振って応えるのを確認すると、「よろしいですわ」と満足そうに頷き返して話を続ける。
「さて、それではこのマナですが。何に使うかといえば……まあ当然わかりますわよね?」
その質問に手を上げて、「はいどうぞ」と指名されたのはリリ。
「えっと、魔法、だよね?」
少し自信なさげにそう言った彼女に、ステラは「ええ、その通りですわ」と頷いて続きの説明に入る。
「魔法にはマナが欠かせませんが、ダンジョンの外ではマナが自然発生いたしません。しかし現代においてはダンジョンの外であっても様々なところで魔法が使われておりますわね。
機械類の動力はかつては電力であった時代もあるそうですが今はほとんどがマナに置き換わっておりますし、交通機関や通信網、あるいは医療であったりといったところでもわたくしたちは魔法の恩恵にあずかっております」
「いわゆる
「このマナですが、当然ダンジョンから回収してその外で使っているのですが……では人類は、そのマナをどうやってダンジョンから回収しているのでしょうか。はいハルカさん!」
その言葉と共にビッと教鞭を向けられて「えっ、ウチ!?」と慌てたような声を出したハルカだったが、しかしすぐに落ち着いた様子で口を開いた。
「えーっと、探索者がダンジョンで倒したモンスターからマナクリスタルを使って回収してる、であっとるよね?」
「ええ、花丸満点の回答ですわね。その通りですわ!
今言って下さった通り、探索者であるわたくしたちはダンジョンに潜ってモンスターを倒し、そこでマナを回収いたします。そうして回収したマナを組合などで売却すること得るお金がわたくしたちの主な収入源となるわけですが……実のところ、探索者にとって回収したマナは売却する以外にも使い道がありますわ。
さて、それはなんでしょう?」
『ほかの使い道?』
『あー、あるっていうかそっちがメインのやつもいるよな』
『これ自体は知っててもどうやるかは知らない人って結構多い』
『なんか、探索者じゃない人にはあんまメジャーじゃない?』
『別に探索者じゃなくても普通にできるし何なら結構推奨されてたりするんだけどな』
ステラの言葉に一瞬頭を傾げて考え込む三人だったが、コメントを見て思い当たるものがあったのか、ハルカが「あっ」と声を上げる。同時にリリも同じものを思いついた様子だったが、ハルカにどうぞどうぞと譲ったようだ。ちなみにヒナはずっとうんうん唸り続けていた。
「レベルアップ、やろ?」
そうしてハルカの口から出てきた言葉は、それだけ聞いたならばゲームかなにかの用語のように思える単語。しかしそれはゲーム内の話ではなく、現実に探索者たちにとって重要なものであった。
「そう。ハルカさん、その通りですわ。
レベルアップ……正式名称で言うならば、改変術式『人類秘跡・
そこで言葉を一度切り三人の顔を軽く見まわすと、ステラはそのままぴしぴしと教鞭を軽く振って手遊びしながら話を続ける。
「ダンジョンから回収したマナを人体やその魂に組み込み定着させることによって恒久的に身体能力やマナとの親和性を上昇させ、人類を強化し一つ上の存在へと押し上げる。まさしく天才の作り上げた魔法。それがこのレベルアップと呼ばれる魔法ですわ。
わたくしたち探索者はマナを売却するほか、回収したマナを用いてこのレベルアップを行って自身を強化し、より難易度の高いダンジョンに挑むことで稼ぎを増やしたりするわけなのですわね」
その説明に「おおー」と拍手する三人。
今ステラが説明した通り、この改変術式『人類秘跡・
「ですがこのレベルアップ、当然ですが注意点もいくらかありますわ。例えばレベルアップは繰り返すたびに必要なマナの量が増えていくので、売却するマナとの兼ね合いを考えなければ生活費もままならなくなってしまったりとか。
あるいは、レベルアップするとき、マナを用いて自身の能力のどの部分を重点的に上げるのかを決めることができるのですが。例えば運動能力を上げるのか、マナ親和性を強化するのか、もしくは膂力を重点的に上げるのかと言った風に、自分のなりたい姿というのをきちんと考えておかないとめちゃくちゃ失敗してしまったりしますわね」
『うっ』
『前衛物理戦闘系なのにマナ親和性を上げて両刀にしようとした結果どっちも中途半端になった記憶が…………』
『魔法支援やりたいって言ってたやつがなぜかめちゃくちゃ筋力ばっか上げてた話する????』
『バランス型はやめろ。繰り返すバランス型はやめろ』
何かトラウマが刺激されたのか、にわかに騒がしくなるコメント欄。それを見て軽く苦笑いをしていた少女達だったが、ふとリリがそれならと口を開く。
「えっと、上げたレベルって下げられないの? それができるならいろいろと試すのもいいと思うんだけど……」
「結論から申し上げますと組合の方で申請を出せば下げられます。下げられるのですが……まあ、何といいましょうか。強化に使っていたマナがすべて霧散いたしますので、集め直しになりますわ。しかもちょっとだけ下げるとかはできなくて、体内のマナが全部抜けて完全に一からのやり直しという話になるんですわよね。……あれ、結構しんどかったですわ……」
リリの質問に答えたステラは、言いながらとても遠い目をする。コメントの方も『ああ……』『さよなら俺の三年間』『ワァ、ァ……』『あまりにもつらい』など無常を感じさせるものが多く。その場、特にステラとコメント欄のあたりにどこか物悲しい空気が満ちることとなった。
そんな空気を換えようと思ったのだろう、ヒナはことさら元気よく手を上げる。
「はいはーい! そのレベルアップって、魔法ってことはわたしたちが自分で使ってやるんですか!?」
そうして出たその元気のよい質問に、先ほどまでの物憂げな顔が嘘だったかのようににこりと笑ってステラは口を開いた。
「はい良い質問ですわヒナさん。答えはノーであるけどイエスにもできる、といったところでしょうか。自分たちでレベルアップの魔法を使うこともできますが、基本的には探索者組合で申請すればその術式を施してくださいますわよ。
ちなみに自力で使おうと思ったらPDFで300ページくらいの術式を丸暗記しておく必要があります」
付け加えられた最後の言葉に、三人の少女は「うへぇ」ととても嫌そうな顔をする。さらに加えて「世の中には全部覚えて自分でやる変態もいますわよ。皆様もチャレンジしてみてもよろしいのでは?」と言うステラに、三人はブンブンと首を横に振った。
「そんなのおぼえられるわけないですよー!」
「あ、あはは……ちょっと私も無理だなぁ、それは」
「ま、おとなしゅう組合でやってもらいましょうってことやね」
『300ページは草』
『でもマジでそんぐらいあるからな……』
『組合で見せてもらったことあるけど、マジでめちゃくちゃ長くて無理だったわ』
『知り合いの研究者があの術式見て「なんて完璧で無駄のない、美しい術式だ」って言ってたから、あの長さで改良点とかないらしいな……』
三人組やコメントたちの反応に、まあそりゃそうですわよねと流すステラ。もちろん彼自身もレベルアップの魔法の術式など覚えていないので、自身で使うことはない。あんなもの人間が自力で使うものではないのだ。
というわけでもうその話は置いておくことにしたステラは、教鞭をヒュンヒュンと軽く回しながら少し考える。このまま座学を進めるべきか、あるいは別のことをするべきか。探索者として勉強すること自体はいくらでもあるが、しかしここで全て教えたとして果たして覚えていられるかと言われればそうではないだろう。特にヒナあたりが怪しい。であれば、違うことをして画面に動きでも出した方が配信的にもいいだろうし、彼女らのためにもなるだろう。
そこまで考え、それではと言わんばかりに彼は教鞭をピシリと鳴らす。
「さて。それではそろそろ座ったままのお勉強も飽きてきた頃合いかもしれませんが。ここいらで少々体を動かすお勉強もいたしましょうか?」
『お?』
『なんだなんだ』
『体を使った……お勉強……!?(ゴクリ)』
「えっと、体を動かす勉強、ですか?」
ステラの言葉に首を傾げるヒナに「ええ、体を動かすお勉強です」と頷き返すステラ。
そしてヒナと同じように疑問を顔に浮かべたようなリリとハルカの方も見て、ステラはまたピシリと教鞭を鳴らした。
「実戦訓練。やってみましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます