第40話

北の塔の前まで飛んできた私達。これから王太子達は今日までの事を報告書に上げる必要がある。私とブラッドローが北の塔へ入っていこうとするとイーヴォ王太子は真剣な顔で聞いてきた。


「ラナ、私も転移魔法を使ってみたい。今度教えてくれますか?」

「そうね、落ち着いたら教えてあげてもいいわ? けれど、かなり危険な魔法よ?」

「それは分かっているつもりです。私も父と同じようにラナに師匠になってもらいたい」

「師匠ね、それは考えておくわ」


そうして手を振り、塔に入った。


「ラナ、師匠になるのか?」

「ふふっ。悩む所よね。もしなったとして三年間は魔法が使えなくなる。そうすると王都から出ることが難しくなる。でも私はブラッドローがいるなら王都にいても構わない。ずっと二人で居たいと思っているもの」


ブラッドローは私を抱き寄せた。


「ラナが思うようにすればいい。俺はラナとずっと一緒だ。旅に出たとしても俺がいる。俺がラナを守る。心配しなくてもいい」

「……嬉しいわ。ブラッド、有難う」


今までギャランを消滅させるのが目的だったけれど、その先の事も視野に入れていかなければいけないわ。

残念ながら王女という肩書だけで私の財産は何もない。


旅に出るとしても少し資金を貯めないといけないわね。ここの塔もそのうち明け渡してしまわなければいけないと思うの。

ツィリル陛下は反対しそうだけれど。

私とブラッドローはギャランの身体を元に戻す方法を二人で再度確認し合った。

多分魔力の源である身体の方は魔力封じをしてある。

頭が付けば頭も身体に引きずられ魔力が使えなくなるだろう。神の力は絶大なのだ。神が力を貸してくれたのだから消滅も左程苦労はしないだろうが、念には念を入れて様々な方法を考えておく。



そこから二日ほど経った日の午後。


「ラナ、私が関わる事が出来るなんて嬉しいよ。いつギャランという者の頭と身体を付けるのかな?」


ツィリル陛下は息子からの報告を受けて居ても立っても居られず塔に来たようだ。


「そうね、私達の準備は出来ているからツィリル陛下の準備が出来次第って所かしら? 執務で忙しいでしょう?」

「なら、明日の早朝に出発しよう。今すぐにでも出発したい所だけど、泉に付く頃には夜になる。夜は魔獣が見えにくいからね」

「そうね。すぐにブラッドにも伝えておくわ」


そうして伝言鳥をすぐにブラッドローに飛ばす。


「!! ラナ、それは何? 僕、知らないよ!?」

「あら? 教えていなかったかしら? これは伝言魔法と言ってね、言葉を伝えるための魔法なの。これは無属性魔法だから誰も使えるわ。小さい物だと蝶などの虫類、大きな物でも鳥や犬位かしら。

言葉で伝えるものと音で伝える物があるわ。ただ、大きな物や長い文章になると魔力も大きくなるからそうなる場合は魔法円を使って転送する事が簡単になるわね」


私が眠っている間に転送用魔法円はグリーヌによって使う事が出来ると確認出来たみたいだけれど、大きな物や距離を運ぶとなるとそれ相応の魔力が必要になる事が分かったようだ。

グリーヌ自身も魔力が少ないし、魔法使いが他にいないから実用には至っていなかった。イーヴォ王太子が転移魔法を知らなかったのは違った魔法だったから。

物を移動させるのは楽なのだが、生きたものを送るのは難しい。生物を転移させるのは高難易度の魔法なのだ。

転移が難しい場合は物理的に飛ばす方法もある。


原始的だが、風魔法で騎士や魔法使いを飛ばして距離を稼ぐ事をしていた記録だってある。騎士なら受け身を取る事が出来るため死ぬことはなかったようだ。まぁ、騎士達も魔法がある程度使えたから着地は適当で良かったのだろう。


ツィリル陛下は転送魔法が知識としてはあっても経験する事が無かったため使う事はないし、考えに入っていなかったのだろう。今は少しずつだが魔法使いも増えてきている状況。

これから使用できる魔法も増えてくるし、魔法も発展していくに違いないわ。


それから少しの間伝言魔法をツィリル陛下に教えた。ツィリル陛下は新しく覚えた魔法で上機嫌になりながら


「ラナ!明日の朝早くに迎えにくるよ!楽しみだ。いつもイーヴォが私の代わりに行っていたからね」

「ツィリル陛下、明日は宜しくね。流れはメモしてあるから明日までに読んで頂戴。まぁ、やることは魔力を流すだけだから難しくないわ」

「ラナの手伝いが出来るなんて嬉しい。頑張るよ」


そうして陛下は私が渡したメモを手に王宮へと戻っていった。

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