第41話
翌日は早朝からツリィル陛下は旅装でやってきた。ブラッドローは私から伝言を受け取った後、すぐに塔にやってきて出発の間まで一緒に過ごしていた。
「二人とも準備は出来ているかい?」
ツィリル陛下の言葉に私達は頷いた。準備された馬車に乗り込むとカラカラと軽快な音を立てて泉へと向かっていった。
ツィリル陛下は馬車の中で魔法の事をもっと知りたいと昨日教えた伝言魔法から物用転送魔法の話や転移魔法について話をしたわ。
やはり親子なのね、と私とブラッドは笑っていた。
私は魔女なので魔法の専門的な話になるとやはりブラッドローの方が詳しい。私は薬や魔法円の方が得意なの。
ツィリル陛下はやはりブラッドローのような魔法使いが合っているのだと思う。そうしてツィリル陛下は魔法談義に花を咲かせながら馬車は目的地までやってきた。そこから私達は歩いて泉に向かう。
あれから道をすぐに整備したようですぐに到着する事ができた。どうやら整備をする時に警備兵もいるようだ。
後から聞いた話だが、ここの警備兵は協会所属の元騎士らしい。教会も精霊の泉が復活した事で協力的になっているようだ。
「ここが精霊の泉なのか。やはりここだけは空気が澄んでいるような気がする」
ツィリル陛下は魔力で満たされた泉に気づいたようだ。
「ラナ、あの泉から何か出てくる」
陛下の言葉に視線を向けると、光の玉と共にギャランの身体と頭を入れている箱が泉から浮かび上がり、地面にそっと置かれた。その様子を見ていた陛下は思わず息を呑む。
「ブラッド、やるしかないわね」
「あぁ。大丈夫だ。そこの護衛、一人こっちへきて手伝ってくれ」
ブラッドローに指名された騎士は一歩前に出てブラッドローと一緒に身体が入っている箱に手を掛けた。
「他の人達は下がって。ツィリル陛下は私とこっちにきて頂戴」
私は慎重に指示を出しながら箱から身体を出すのを見守る。首のない身体の腹部には焼かれるように付いている魔封じの印。
「ラナ、あれが魔封じの印かい?」
「えぇ。神の力を借りて行ったものよ」
ツィリル陛下はイーヴォ王太子の報告書を細部までしっかりと読んでいるのね。身体は地面に置かれ、騎士は他の騎士同様に後ろに下がった。
「首を出す」
私と陛下は頷き、何があっても良いように態勢を取った。箱から取り出した頭はギョロリと周りを見渡している。
「おまえぇぇぇぇ!!! 殺してやる!!」
ギャランは私を見つけた瞬間に火の玉を出してきた。
だが、私が負けるはずはない。
その場で火の玉を消し去った。
「相変わらず馬鹿なのね。ギャラン。千年もの眠りから覚めても言う事はそれだけ?」「殺す! 殺す! 殺す……」
どうやら精神は崩壊したまま自我を完全には取り戻してはいないようだ。
「いい? 今から頭と身体を繋げる作業を行うわ。その間、ギャランは動くことが出来ない。完全な身体に戻ったら魔力のないただの人間に戻るわ。消滅させる呪文は少し長いの。その間、ギャランを拘束して頂戴。いいわね?」
私は騎士達に聞くと、騎士達は頷き応えた。
「では始めましょうか」
私がそう言っている間もずっとギャランは火の玉で攻撃し続けていたが、水魔法でその都度消し去っていく。
「ラナ、俺が代ろう。魔法円を頼む」
ブラッドローが私の代わりにギャランの攻撃を闇魔法で呑んでいく。私が身体に向けて魔法円を発動し詠唱していく。身体と頭は一つ目の魔法円に張り付くように動けなくなった。
「陛下、魔法円に魔力を流してくれ」
ブラッドローの指示でツィリル陛下が魔力を流していく。ブラッドローは二つ目の魔法円を構築し、一つ目の魔法円に重ねる。
私が三つ目の魔法円を左手で構築した後、一つ目の魔法円に重ねる。
同じようにブラッドローも四つ目の魔法円を構築し、一つ目に重ねた。四つの魔法円は身体と首を囲むようにゆっくりと回り始めた。
ギャランは苦しむように叫び声を上げている。首と身体が繋がる事は苦痛ではないはずなのだが、ギャランにとっては身体を焼かれるような感覚なのだろう。
それは身体に施されている魔封じの影響だと考えられる。
首もこれで魔法が使えなくなるはずだ。ギャランは無意識に逃れようとしているのだろう。
邪悪な魔力を放出し、魔法円を壊そうとしている。
「ラナ! どうしよう!? 魔法円を壊しそうだ」
「……大丈夫。ツィリル陛下は気にせず魔力を流し続けなさい」
詠唱で喋れない私に代り、精霊が陛下の耳元で話している。私もブラッドローも出力を上げ、最後の詠唱に入る。
「ぐぅぅぅあぁぁぁぁっっっ」
ギャランは叫び身体も最後まで抵抗しようとしている。
四つの魔法円は身体に入り、首と身体が繋がった。そうして身体が光ると魔封じも完全に首を捉えたようで苦しみも収束し、ギャランはハァハァと荒い息をしながら抵抗が無くなった。
「さぁ、普通の人間に戻ったわ。ようやくね」
騎士達は私の指示を守り、ギャランをすぐに拘束する。魔法が使えないため抵抗するも騎士達には叶わなかった。
「ぐぐぐぅがぁぁがぁ」
身体は人間だが、やはり精神は戻っていない様子。ただ目の前にいる私に対しては悪意を向けている。
永久の首になったのは自業自得だというのに。
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