第38話
翌日、私達は王都観光をすることになった。
イーヴォ王太子は視察でしか来た事がないと言っていたのでこの日は護衛騎士達と観光を楽しむらしい。
みんな平民の着るようなラフな服装で街へ出掛けるようだ。いつも自由が制限されているせいか今日は上機嫌で街に繰り出していったわ。
私はというと、ブラッドローと街を散策する事にしたわ。私も街を歩いてみたい。
「ブラッド、準備は出来た?」
「あぁ。ラナ、行こうか」
「今日のラナはとても可愛い。街を歩いている男共に連れ去られないか心配だ」
「ふふっ。嬉しいわ。ブラッドも素敵すぎて誰にも見せたくないわ」
「なら、誰にも取られないようにこうして行こう」
ブラッドローはそう言うと指と指を絡ませて手をつなぎ歩く。手から伝わる温もりが私に幸せを運んでくれる。
……嬉しい。
もうこんな気持ちは芽生えないものだと思っていた。
悲しみに蓋をしたまま一人消え去るのだと思っていた。嬉しくて、幸せで、苦しくて、涙が出そうになる。
「ラナ? どうしたんだ?」
「……幸せだなって。ブラッド、愛しているわ」
「ラナ、俺もだ」
そんな甘い会話をしながら歩いて中央広場までやってきた。
中央広場には休日になると人々が集まり、様々なイベントが催されるらしい。今日は休日ではないのでイベントはないらしいが、沢山の人が行き来している。
そして広場の一角に露店が立ち並ぶ場所がある。私達は露店を散策する事に決めた。
「ブラッド、あれは何かしら?」
「あれはこの地域特産の果物だ。昔は無かったからここ最近育てられた物だろう。食べてみるか?」
「おじさん、この果物一個下さいな」
私は店主に声をかけて一個買ってみる。もちろんフルーツの価格も分からないので支払いはブラッドにお願いするしかない。これも覚えていかないといけないわね。
「一個三十ギリンだよ。毎度あり!」
甘そうな果実。店主が言うには皮ごと齧り付くのだとか。店主の言う通りに齧りついてみると甘くて瑞々しいわ。香りは控え目で癖もなく食べやすい。
「ブラッド、美味しいわ。幸せっ」
ブラッドローは私の顔を見て微笑んでいる。その顔を見て途端に恥ずかしくなった。ちょっと浮かれすぎていたかもしれない、と。
王女で無くなってからは感情を抑える事はしなくなったけれど、喜びを素直に出す事なんてなかったからその事に対しても気恥ずかしい。
そうして食べながら露店を見回る事を知った私はブラッドローと一緒に果物や野菜、雑貨、菓子が売ってある場所を見て回った。
「見たことの無いものばかりでワクワクしてしまうわ。早く全てを終わらせて色々な街を見て回りたい」
「あぁ、そうだな。楽しみだ」
そうして話ながら歩いていると、『ギルド』という看板が掲げられた店を見つけた。
「ブラッド、『ギルド』って何かしら?」
私はその店を指さして聞いてみる。店には冒険者らしき人達が沢山出入りしている様子。冒険者が集まるような店は旅をするのに必要な道具を揃える店なのかしら?
「俺達も『ギルド』に入ってみよう」
ブラッドローはそう言って二人で入ってみた。私は思っていた物と違ってキョロキョロと辺りを見回していると、男性三人組が声を掛けてきた。
「よう、ぼっちゃん達。ここはガキの来る所じゃねぇぜ?お前さん達、貴族だろう?」
男達はガハハと私達を小馬鹿にしながら笑っている。
「ねぇ、ここはどんなお店なの?」
「仕方がねぇな!教えてやるよ。だがお嬢ちゃんは俺の女になるのが条件なっ!」
「あらあら、じゃぁ、仕方がないわ。お店の人に聞くわ。どきなさい」
私がそう言って男たちを避けて店の中へ進もうとするけれど、意地悪そうに笑みを浮かべて通せないようにしはじめる。
「ブラッド、どうしようかしら? 無礼な者はやってもいいのかしら?」
「ラナ、こういう時に俺がいるだろう?」
ブラッドローがそう言うと、片手を上げて男達を制止する。
「止めておけ。お前達に勝ち目は無いのだから」
「なんだと! てめぇ! なめてんのか!? 女の前で格好つけても無駄だ。俺達はCクラスだからな!」
Cクラス?
強さによってクラス分けがされているのかしら?
男達を観察していると、剣を鞘から抜き今にも襲い掛かってきそうだ。ブラッドローは気にせずに指をパチンッと鳴らすと男達に蔦が絡みつき、一瞬にして制圧をしてしまう。
「ラナ、こいつらを放っておいて受付に聞きにいこう」
「そうね」
先ほどまで沢山の人で賑わっていたけれど、入り口で騒いでいた私達に気づいてシンと静まり返ってしまったようだ。
受付にいた女の人は三十代半ばと思われるような人で冒険者達を軽くいなしているようだ。話し掛けると明るい声で話をしてくれた。
「聞きたいのだけれど、ここはどういったお店なのかしら?」
「あら、あんたら『ギルド』を知らないのかい?ここは冒険者が集まる店でね。依頼主が目的の魔物の討伐依頼してギルドに登録している冒険者が魔物を倒して肉や素材を持ち帰り、依頼の報酬を受け取るシステムなのさ。冒険者はランク分けされていてランクが上がるほど報酬も高い。倒した魔物の買い取りも行っているよ」
「面白いシステムなのね」
昔には無かった物だわ。冒険者達はここで報酬を得て暮らしているのね。
「この街にしかギルドはないのかしら?」
「世界中に支店があるよ。貴族の坊ちゃん達は知らなかったのかい?」
私はブラッドローの方を見るとブラッドはあることを知っていたようだ。
「ブラッド、知っていたの?」
「あぁ。ただ入った事は無かったな。興味が無かったしな。だが、これから二人で旅をするならギルドに登録しておいても損はないだろう。俺とラナなら問題ないだろう?」
確かに旅をしながらだとお金は必要になってくる。依頼を達成して報酬を得ながら旅を続けるのも面白そうね。ギャランの事が済んだらギルドに登録してみようかしら。
「説明をありがとう。今度、登録してみるわ」
「お嬢ちゃん達が魔物討伐?剣も持て無さそうだけど、大丈夫なのかい?」
「それについては問題ないわ。さっきの彼等を見たでしょう?私達は魔法使いなの」
私がそう口にすると静まり返っていた周りは一気に騒がしくなっている。
ここでは口にしない方が良かったのかしら?
受付の女の人も驚いて口をパクパクさせている。
「な、何だって?今、王都で国王様が魔法使いを教育していると噂では聞いていたけど。あんたらがそうだっていうのかい?」
「えぇ、そうね。一応はね」
「だったらすぐにうちのギルドに登録しておくれ。ギルド初魔法使いだよ!」
「ふふっ。今はまだ私達は王命で動いているの。全てが終わったら旅に出るからその時はギルドに登録しに来るわ」
「そうかい。王命なら仕方ないね。だが、絶対来ておくれよ!」
受付の人は乗り気でギルドの詳しい説明をし、私達はそれを聞いた後、手続きせずにギルドを後にした。
「ラナ、時間も時間だからそろそろ戻ろう」
「そうね」
宿泊場所に戻るとイーヴォ王太子と護衛騎士達は先に戻っていたようだ。久々に羽が伸ばせたようで朝よりも力が抜けている感じがする。それは護衛騎士達も同じようだ。
明日の準備も整ったので今日は早めの就寝となった。
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