第32話

「今日の役目は終わったわ。後は魔力が回復するまでのんびりしたいわ」

「そうだな。俺達には休息が必要だ」


公爵家に戻ってゆっくりと数日を過ごす事にしていたけれど、そう上手くはいかないらしい。

早々に私達は城へと呼ばれる事になった。


王太子が泉での出来事をツィリル陛下や王宮魔法使いに話をしてもっと魔法円を教えて欲しいと言われたのだ。私達は準備が整い次第、障りのある場所に向かうため断りを入れたのだけれど、ツィリル陛下が旅立つ前に是非とも会いたいと言われたのだ。


流石にそれは無視できないのでブラッドローと二人で城へと向かう事になった。今回は非公式な場なのでサロンでツィリル陛下とお茶をする事になった。


王宮のサロンは隣国からの外交官をもてなすような作りになっていて、ゆったりと中庭を眺めながらお茶を飲むような形の部屋の作りになっていた。そして精霊の泉が復活したおかげか少しずつ大地や森に精気が戻って来ているのを感じる。精霊達が泉に留まってくれればこの国も災害が減るようになるわね。


「ラナ! 泉の事をイーヴォから聞いた。本当に有難う。気のせいかここ数日、空気が少しずつ変わって来たようなきがする。ほんの少しだけれど」

「そうね、精霊達が今は活発に動いているからよ。これからは災害が減ると思うわ」


そして私達はこれから向かう場所の話をする。


「ツィリル陛下、私達はこれからパノ村へと向かってそこから『忘れられた地』に向かうわ」

「……そこには何があるのかな?」

「うーん。まぁ、私の腹違いの兄弟が眠っていると思うわ」

「ラナの兄弟?」

「多分身体だけだと思うの。彼は私と同じ『永久の首』になったの」

「じゃぁ、復活させれば魔法使いが増える?」

「いいえ、彼は私とは違うわ。彼は私を罪人に仕立て上げた張本人なの。そして魔法使いでもないし、精霊の祝福も受けていないわ」

「精霊の祝福を受けていないと何が違う?」


私の言葉に陛下は眉を顰めている。


「もし、ツィリル陛下は未来永劫死ぬことが許されないとしたらどうなるかしら?」

「……気が狂ってしまうね」

「そうよね。私は神の神託や精霊の祝福があったからこうして精神を保つ事が出来た。彼は誰も会う事の無い深い森の奥に千年以上いるの。腐っても王族。魔力が豊富なの。それが狂ってしまえば魔獣に影響を及ぼしていると考えても可笑しくはないわ」


「きっとやつの魔力は狂って瘴気に変換されているのだろうな。俺やラナはその瘴気を僅かながらこの距離で感じるほどだ。瘴気は魔獣を強化する。あいつが消滅すれば魔獣もまた弱体化するだろう。以前のように」

「ブラッドロー君、それは本当か?昔の魔獣は弱かったのか?」

「あぁ。多少は強くなっている。祝福された魔法使いの数は少なくても大型魔獣一匹に数人の騎士程度で対処可能だった」

「……そうか。私は二人に頼むしか出来なくて歯がゆい。どうかその瘴気の元凶を消滅させてほしい」

「えぇ、もちろんよ」


私はどのように消滅させるかまでは言わなかったけれど、一度首と身体を繋ぎ、永久の首の刑を解除させてから消滅させるしか方法がない。忘れられた地は二カ所ある。


「ツィリル陛下、そろそろ公爵家に戻るわ」

「ラナ。城に泊っていくといい」

「ふふっ。有難う」


私達が話をしていると、


「ブラッドロー様、来ていたのねっ」


突然の事に私達は振り向いた。

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