本編
第25話
--パリンッ。
扉に掛かった魔法が壊された。私はずっと眠っていたようね。壊された衝撃で目が覚めた。
私の魔法を簡単に破るのは誰?
……もしかして。
一歩一歩部屋へと近づいてくる魔力に驚き、震えが止まらなくなっている。
ガチャリと扉が開いた。
その先にはかつての、愛おしい、私の、婚約者の姿があった。
「……ラナ。長い間待たせてごめん。迎えに来た」
涙が止まらなかった。
苦しくて、嬉しくて、悲しくて……。
様々な感情が、失われた感情が色を取り戻したかのように溢れ出てくる。
「ブラッド……。本当?」
「あぁ。もちろん本物だ。俺だって精霊の祝福を受けているだろう?」
「……そう、だったわね」
魔法使いの儀式は魔力が増加するだけではないというのは知っている。ただ、その祝福は目に見える物ではないし、人によって違うので詳しくは分からない。
私の精神が崩壊しなかったのは神託と精霊の祝福なのだろうと思っている。同じようにブラッドは記憶や経験を引き継いで生まれ変わったのだろうか?
「俺は、カルシオン陛下に願い、特別に魔法を掛けて貰っていた。そのままの姿で生まれ変わりをする事を」
父がブラッドローに王家の秘術を掛けていたの?
だとしたら精霊の祝福は何かしら?
私の疑問に答えるようにブラッドローは私を抱き上げて口を開いた。
「ラナと婚姻し、生涯を共に添い遂げたい。とずっと願っていたのを精霊達は叶えたのだと思う。君は神託を授かっていたからね」
「……本、当?」
声が震える。
「でないとこうして君に再び会う事は叶わなかったよ。他の魔法使いはずっと前に転生して祝福も切れた。今、正式な魔法使いは俺とラナだけだ」
「そっか。ブラッドローが私を迎えに来てくれたと言う事は、そうなのね」
「大丈夫だ。俺もこうして君を迎えに来た。これからは俺がずっとラナを支える」
ブラッドローの言葉に止まりかけていた涙がまた溢れだした。
もう、私は一人じゃないと、孤独に生きてきた苦しみや辛さが溢れて声になる。
そうして一頻り泣いた後、塔に誰かが入ってくるのを感じた。
-コンコンコンコン-
ガチャリと開いた扉の先にいたのはツィリル王子だった。何年ぶりだろう。すっかり大人になって王としての貫禄もあった。
「ツィリル王子、大きくなったわね」
「……私の事を知っているのか?」
「あぁ、ごめんなさいね。魔法を掛けたままだったわ。こっちへいらっしゃい」
ツィリル王子は首だけの私に驚きながらも私の前にやってきた。
ふふっ。小さかった頃を思い出すわ。
私は少し思い出に浸りながら髪の毛を彼の額に当てて魔法を解除する。すると彼はうめき声と共に二、三歩後退り、頭を抱えた。
忘れていた事が走馬灯のように駆け巡っている様子。
「ラ、ナ。ラナ!思い出したっ。僕は、ラナ!一杯話したい事があるんだっ」
ツィリル王子は目を輝かせて私に話し掛けてくる。私は彼に優しく抱えられながら微笑む。そこからツィリル王子は私に今までの事をずっと話し続けていた。彼は止めどなく会話をする。
好きになったフラヴィの話や魔法使いを増やしている事やアレフィオやグリーヌの話も。
今では魔法を使って魔獣を討伐する以外に生活に転用出来ないか試行錯誤が行われているらしい。
そして魔石の活用も一気に増えてアレフィオやグリーヌは大金持ちになった。羨ましいって。青春の一ページを思い出したようで一頻り話をした後、ブラッドローを追いかけて来たと。
みんなも心配しているし、また来るといって塔を後にした。
「嵐のように過ぎ去っていったわ」
「あぁ。彼はそれだけラナの事を想っていたんだろう」
「そうね、きっと彼にとっては私は初恋の相手だったのだと思うわ」
「ラナ、少し疲れただろう?眠るか?」
「眠りたくないわ。眠ったらこれが夢だったら悲しいもの」
「大丈夫だ。俺がずっとここにいるから。一緒に身体を元に戻すために必要な休息だ」
「……そうね。嬉しい。身体のためにも少し休まないとね」
私はブラッドローが用意してくれた首用ベッドに入って目を閉じる。
ブラッドローが私のためだけに用意してくれた物。
千年以上も繰り返し使い続けている。このベッドとももうすぐお別れだと思うと少し感慨深いわ。
私は身体が戻った後の事を考えると気が重い。でもこれからはブラッドローが側に居てくれるというだけで嬉しくてまた少し泣けた。
「ラナ!おはようっ!今日も来たよ。……なんだ、ブラッドロー。ここにいたのか」
「陛下、勝手に女性の部屋へ侵入してはいけません。ラナは私の婚約者ですから」
「ラナは首だけだし、魔法も私より強いのだから何の心配もない。もっとラナと話がしたいし、魔法の事を知りたいのだ」
「陛下、ラナは……「ブラッド、いいわ。私から話すわ」」
ツィリル陛下は興味津々とばかりに椅子に座り、私が話し始めるのを待っている様子。
ブラッドは心配そうにしているけれど、私を見て口を出さないと決めたみたい。
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