第15話ラナの過去

「ラナ・トラーゴ・オリベラ。多くの民を虐殺した事、到底許される事ではない。これは貴族院、元老院も満場一致をした。よって一番重い刑である『永久の首』に処する。未来永劫死ぬことは許さぬ」


そう、私はそうして首だけとなり未来永劫生き続けるという刑罰を受ける事になった。


「ラナ、様。おいたわしや。ギャラン王子のせいで、姫様がこんな目に。許される事ではありませぬ」

「……じいや。私が冤罪だと一部の人達は知っている。それだけで十分よ。それに覚えているかしら? 私には神託が降りているのよ? きっと神様は私の事を見ていてくださっているのよ。こうなる運命だったの。受け入れるしかないわ」


私に仕えていた者達との別れもそこそこに王宮の前にある広場へと連れてこられた私。民は私を憎み、睨みつけ、石を投げる。私は今、魔法錠で手の自由を奪われ、口には布を噛まされている。


ここサロメラ国は魔法国家であり、余程の重罪人で無い限り刑の公開はしないのだが、私は重罪を犯した事により広場で刑を執行されるのだ。


「ラナ・トラーゴ・オリベラ王女の刑を執行する。王女は魔物を討伐するという理由で大量破壊兵器を生み出し、多くの民を虐殺した。貴族院、元老院の協議の結果、『永久の首』となった。これより刑を執行する!」


刑の執行人がそう高らかに宣言すると、民は騒然とし始める。

斬首などの処刑を行う事はこれまでには無かった。『永久(とこしえ)の首』は死ぬことが許されない。未来永劫生き続けなければいけないという罪。

その残酷さ故に未だかつて行われた事のない刑にざわついていたのだ。

民としても多くの人の命を奪った王女は憎いが、これまでの功績を考えても罪が重すぎるのではないかと言う声もあった。

だが、刑は既に決定されている。


執行人が宣言をした後、何人もの仮面を被った魔法使いが私を取り囲み長い長い詠唱に入る。幾重にも浮かび上がる魔法円。その色は禍々しく赤黒い。そうして魔法使い達が詠唱を終えた所で執行人が斧で私の首を切り落とした。

広場には歓声や悲鳴、怒号など様々な声が響いていた。


そうして私は三日三晩首だけで広場に晒された。

首から下はというと、国王である父からの命で丁寧に扱われ、尊厳は守られる事になったようだ。


三日三晩を広場で晒された後、一人の仮面を被った魔法使いによって城の片隅にある忘却の塔へと連れてこられた。

そこで彼は仮面を取る。


「……ラナ。すまない。俺の力が足りずに」

「そんなことはないわ。貴方はずっと私の側に居てくれたじゃない。私が物事に疎かっただけなの。貴方は何も悪くないわ。ブラッドロー」

「ラナ、愛している。俺は絶対に君の冤罪を晴らし、必ず身体を見つけるから」


ブラッドローはそう言って私をギュッと包み込むように抱えた。


そうしてどれくらい過ぎたのだろうか、ブラッドローが私の冤罪を皆の前で証明してくれたの。

私を陥れたのは第三王子のギャランだった。私は第三側妃の子でギャランは正妃の子。国王の寵愛が私の母にあった事や私が生まれた時に神託が降りた事で正妃の恨みを買ったことは言うまでもない。

正妃は常々母や私に嫌がらせをしてきたの。


第一側妃は毒殺され、第二側妃は病床を理由に後宮の奥深くで隠居生活を送っていたわ。今なら分かる。正妃は側妃たちを迎え入れたくなかったのだろう。

気性が激しい人で歯向かう貴族達にも容赦が無かったと聞いている。国王は気性の荒い王妃に嫌気が差し側妃を迎えたが、正妃が叩き潰していったのだと。


義兄である王太子は正妃の子だが、父に似たようで穏やかな人だった。

いつも私は義兄に付いて回っていたのよね。次男は活発だったけれど、いつも騎士団と一緒に魔物の討伐に出ていてあまり顔を合わせる事がなかった。


三男のギャランは残念ながら王妃に似てしまった。嫉妬深く、いつも誰かを陥れては笑っていた。私はギャランが嫌いでなるべく近づかないようにしていたわ。他の妃であった兄弟はというと、早々に臣下に下り、王太子を支えるよう文官になった。

きっと正妃に脅されていたのかもしれないわね。


私は王女なので継承権は低かったし、魔法使いに興味があったから幼少の早い時期から魔法学校へ入り、魔法について学んだの。学んでいくうちに魔法使いよりも魔法や魔法円について研究がしたいと思ったの。

そして魔女になる事を選んだ。


私は魔女になる事を父に報告した後、魔女に弟子入りする事を許されたわ。とはいえ、私の師匠は魔法学校の先生だったからずっと研究室に篭る感じだったの。十四歳の時に私は魔女になる儀式を受けた。


魔法使いや魔女になるためには儀式が必要で儀式を終えるとようやく一人前と認められるようになる。師匠と森の奥深くにある精霊の泉へと向かい、泉の中に入って精霊たちに宣言するの。これから私は魔女になりますって。

そして人々の安寧に寄与する事を誓う。

魔法や薬を悪用しないようにするためにね。


誓いを破ればそれ相応の罰が精霊より下されるの。私は精霊を見たことがないけれど、教会の一部の人間は精霊を見ることができる人達がいたのは知っている。余談ね。


そして精霊の泉に入った時に師匠はずっと魔力を流し続けるの。

精霊の祝福が終わるまで。精霊に捧げる魔力は膨大で師匠になる人間は限られていたの。本来、誰もが魔法使いや魔女を名乗れるわけではないのよ。

師匠は精霊に魔力を捧げるのだけれど、弟子を一人前として認めてもらう契約というのかしら? 三年は魔力が元に戻らず、ほぼ魔力無しで生活しなければいけないの。


弟子の方は精霊からの祝福として魔力量が大幅に増える。


そして精霊達から一人前と認められた魔法使いや魔女は新しい場所に飛ばされる。どこに飛ばされるのかはわからない。そうして一人で生きていく事を余儀なくされる。


でもこれは代々続いてきた事で、師匠になる人間にとってはとても栄誉とされていたの。多い人は生涯に十五人くらい弟子がいる人もいたわ。

一人前になった魔法使いや魔女達は自分が師匠となれるように自己研鑽に励むのよ。

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