プロローグ

20××年9月4日 午前6時30分 教会


裏社会の人間なら、誰しも1度は聞いたことがある異能マフィア組織がある。

金さえ積めば、密輸も殺人も人助けだってやる、何でも屋な組織だとか。その名は「黒影こくえい」。幹部は全部で6人。BOSSに忠誠を誓う狂犬たち。そんな幹部たちに、BOSSからある命が出たらしい。



烏の羽のような黒い髪の毛に、血のように真っ赤な瞳を持つ男が、教会の長椅子に腰掛けていた。夜明けで、辺りはまだ静まり返っている。しばらくすると、扉が鈍い音を立てながらゆっくりと開いた。


「あれ、お兄様?今日は随分と早いんだね。久しぶりにノア、負けちゃったぁ。」


思わず笑みが浮かぶほど可愛らしい少女の声が鼓膜を揺らす。扉の前に立っているのは、フリルやリボンで装飾された眼帯に、長い髪をハーフツインにした12歳の少女だ。


「うん、珍しく早起き出来たしノアを驚かせたくえ早く来たんだ。声かけなくてごめんな?」


年齢と比例してわがままな性格な為、怒って拗ねられる覚悟でそう声をかけたが、ノアの反応は予想とは違った。


「…お兄様、ノア嬉しい。お兄様が朝一番に会いに来てくれるなんて!」


そう言い、こちらに駆け寄り隣に腰をかけた。


「なんだレオ、今日は余裕もって来たんだな。」

「…何カイ、俺が早く来ちゃ悪い?」

「ハハッ、まさか。久しぶりにだーいすきな幼なじみに会えて嬉しいなーって。」


茶々を言いながらこちらに歩み寄ってくるのは、白髪に少し長めの髪をハーフアップに結ったカイだった。最後に顔を合わせて話したのが2ヶ月前で、不仲なわけではない。ただ、カイの方が長期任務で出張中だっただけだ。


「ふーん。ってか他の3人遅くない?」


身につけていた腕時計を見ると、集合時間まで残り1分と時間が迫っていた。そして、教会の長く響く朝の鐘の音が、カンカンと鳴り響いた。

重い扉が開き、1人の中年の男が真っ直ぐ壇上へ足を進めた。我が黒影の王だ。

すると、ノアの真横の床にネオンライトブルーの魔法陣が浮かびだした。光がどんどん強くなっていき、そこから3人の男が現れた。


「遅くなりました…こいつらが寝坊したので。」

「朝からすまないな。」

「いえ、BOSS。お気になさらず。」


そう言い、眉を下げ困ったように立つイヴァン。彼は瞬間移動の能力持ちで、朝集合の連絡を入れた所返信が来なかった為急いで迎えに行ったらしい。


「…んぁ、もう朝?」

「大事なBOSSの呼び出しに遅れて申し訳ありません…。」


続いて、朝に弱くまだ意識がハッキリしていないリアムと、イヴァンとバディを組んでいるクリスだ。そして、レオとノアの前の長椅子に腰をかけた。


「よし、全員揃ったことだし本来に入ろう。昨夜また未来が見えた。未来視が出来るのは俺の目のせいだが、今回はスルーできない事態だった為、お前らには集まってもらった。」


先程までの茶番に笑っていたBOSSが、真剣な表情でこちらを見下ろした。

未来視。言葉の意味そのまんまの意味合いで、その力を持つ者は身の回りで今後起こる未来が見えるらしい。
未来視は珍しく重宝しされている能力で、マフィアなのに国のお偉いさんから裏で依頼を受けたりすることもあるそうだ。今裏社会で黒影が最も強いとされるのは、そのBOSSの能力もひとつだと言えるだろう。未来視は生まれた時から持つものではなく、代々伝わる能力継承である。時には天災の予言をし、時には時の権力者が変わることも予言したという。
そしてこの事実を知る者は国を影で支える者も含めて極々少数に限られており、未来視の存在も黒影の上級構成員と幹部のみだ。この能力を使って余所からの都合の悪い介入を防いでいた。そのため黒影を導く未来視は、必ずBOSSが継承しそれを他者に譲る方法も本人のみが知っている。


「それで、簡潔に言うと近いうちに組織が崩壊する。」

「崩壊…って、どうして…。」

「詳しくは見ることが出来なかったが、内部の裏切りということは確かだ。そこで、お前らにやって欲しいことがある。」


辺りは緊迫した雰囲気に包まれた。そして、一息置いてから彼らを真っ直ぐ見て告げた。


RAT裏切り者狩りだ。そして、1番功績を挙げたものにはこの王座を譲るとしよう。」


彼らは、RAT狩りよりBOSSの座を譲ろうとすることに驚き目を見開いた。


「王座ってなんで急に?」

「そりゃあ、俺ももういい歳だ。そろそろ若いお前らに引き継いで、組織のサポートに回るのもいいかと思ってな。ってことで、頼めるか。」


RAT狩りは、偶にあることだし組織の崩壊も仲間たちとなら何とかなるだろう。しかし、これはいつもの任務じゃない。組織の将来を担う彼らへのミッションだ。


「YES,BOSS.」


この組織の王になるのはこの俺(私)だ。瞳に闘神を宿らせ、彼らは試練に挑む。







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