第2話 自販機最強説
歩く。
右足を出した後、左足を出す。
ただ、動作を繰り返すだけ。
余計なことを考える必要がない環境とは、正にこのこと。
ベッドで寝る時にあれこれ考えてしまうのは、やることが「寝る」という、今まで何万回もしてきたのにやり方を聞かれると答えが分からないことしかすることがないからだ。
対して、「歩く」
思考停止してもできる自信がある、私が最も得意とする移動手段。
さすがに池袋は人が多いが、今は不思議と不快にならない。
別に、共に社会で働く彼らが愛おしく感じたとかいうとんでも思考に至ったわけではない。単純に興味がなくなった。
人混み。
人ごみ。
人ゴミ。
そう、ゴミくらいの存在になっている。
ぶつかってきても「汚いなぁ」とは思うがゴミに腹を立てても仕方がないと諦めることができる。
「‥‥‥喉乾いた」
これからの長丁場に私に栄養を与えてくれる水分が必要だ。
ここで登場、自動販売機。
日本の発明品TOP3には必ず入るであろう素晴らしい機械に小銭を入れてスポーツドリンクを買う。
人を介さなくて良い優しい箱が、私は好きだ。
商品が出てくる時の「ゴトンっ」って音も良いよね。あの音を録音して寝る前に聞こうかしら。
そんな素敵な音と共に出てきたスポーツドリンクをがぶ飲みする。
中々の量の砂糖が入っているらしい液体をガブガブ飲む。
若い時と比べて痩せづらくなった。そのため避けてきた飲み物だが、お酒より全然美味しいんじゃないかと思った。
砂糖なんかどうでもいい。
350mLを一気飲みしてしまった。
「‥‥‥ふう!」
余は満足じゃ。
これで100キロでも歩けるわ!と一瞬で調子に乗った。
ズンズン歩く。
\
酔ってる時は、人を殴ってもいい。
そんな時代錯誤な考えを持っている人がいる人が、まだいることにビビった。
「いやー。昨日はごめんね。ついヒートアップしちゃってさ」
そう笑って謝ってくる上司に、私は「いえいえどーもー」と、我ながら意味の分からない相槌を打った。
また、時間と労力をかけて話を聞いたり、性欲の吐口になったりと、ゴミ箱の役割をしてきたのに、あの人はいなくなった。
結局は私のやってきたことなど、焼け石に水。
人の役に立てていると思い上がっていた自分に反吐が出る。
人は、自分にしか救えない。
人との関わりが何より大切とだか、優しい世間様は仰ってくれるが、他人はどこまでいっても他の人だ。
ヨソはヨソ、ウチはウチ。
子供の頃、お母さんにそう言われていたことを思い出す。
本当にその通りだ。
他人が私の精神を蝕むのなら、こうして孤独に夜の街を歩いている方が、断然楽しい。
\
「お腹すいた」
さすがにコンビニで店員という他人と関わらないといけないかと思ったが、マジで優秀、自動販売機様の再登場だ!
有名な相模原のレトロ自動販売機の聖地にあるような、ラーメンの自動販売機が、ここにもあった。
前から食べてみたかったが、時間と羞恥心が邪魔をして試せていなかった。
しかし、今はそのどちらもクリアしている。
500円玉を入れて、チャーシュー麺を選択し、3分ほど待つ。
どうやって調理しているのか興味があるが、それを知らないからこその魅力なのだと考え直してスマホを取り出さなかった。
アッツアツのラーメンを取り出して、地べたでウンコ座りをして食べる。ヤダ、私ヤンキーみたーい。
ズルズルズルッ。
「‥‥‥うん」
たぶん、普通のカップ麺とかの方が美味しい。
でも、ど深夜に自販機ラーメンを食べているという事実が、私の気分を高揚させた。
スポーツドリンクに、ラーメン。
ボッチに優しい自動販売機。
一生着いていきます。
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