第4話 すずめの戸締まり※『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』観た後向け

金曜ロードショーに間に合え、と頑張って書いていますがおそらく間に合わないでしょう。計画性が無さすぎる。


そしてたった今金ロー終わりましたので、今回は観た後の方向けで深めに語ろうかなと思います。


草太さんはロン毛回で詳しく語るので今回は控えめで。


まず、私新海誠監督のファンなんです。

いちヲタクとして作品が大好きだし、いち創作者として尊敬もしています。

前者は置いておくとして、後者の理由を少し語らせてください。

『君の名は。』で空前絶後の大ヒットを記録した新海誠監督。以降の『天気の子』、そして今回語る『すずめの戸締まり』。新海誠監督作品といってパッと名前が出てくるのはこの3つが多いのではないでしょうか(私が現在高校生なためもう少し上の世代だとまた違うかもしれませんが)。

しかし、新海誠監督はそれ以前にも作品を作っています。

特に私が一度観てほしいなと思うのは『秒速5センチメートル』です。

ファンタジーな展開は一つもない、ただ淡々と現実がお押し寄せては過ぎ去っていく、振り返った時にはもう全てが遅い。

『秒速5センチメートル』と検索をかけると、候補に、トラウマ、気持ち悪い、などの言葉が出てきます。

この4行の説明を読んで、「本当にあの新海誠監督?」となった人が多いと思います。本当にあの新海誠監督です。

『秒速5センチメートル』はカルピスでいうと原液みたいなものです。

その原液を、水で割る。誰もが美味しいと思えるカルピスが生まれる。それが『君の名は。』だと私は思います。

その覚悟と技量を私は尊敬しています。


そんな方の最新作、『すずめの戸締まり』。


九州に住む女子高生すずめが、ある日“閉じ師”の青年、草太に出会い、災いを招く”後ろ戸”を閉じながら、様々なものと向き合っていくロードムービー。


これまでは少しサイエンスみのあったファンタジー要素からサイエンスみが消え、設定がより簡潔になっていることで、主人公の内面の掘り下げが

『君の名は。』『天気の子』より深く感じました。


3作品全てに共通する重要なポイントとして、『世界の救い方』があると思います。


※以下個人の考察が少し含まれます


『君の名は。』では、宮水家が脈々と受け継がれてきた能力で、未来に生きる瀧と繋がり、災い(隕石)自体は避けられないけれど町の人命を救う。


『天気の子』では、災い(天気)自体を操ることのできる陽菜さんが、人柱となることで災い(天気)は安定する。しかし主人公である帆高はそれを否定。愛する陽菜さんを救うことを選ぶ。結果、東京の三分の一は水に沈んだ。その中で人々は何も知らずに日常を送る。


では『すずめの戸締まり』を考えてみましょう。

災い(みみず)を止めておくには要石と呼ばれる人柱が必要。

先代要石であるだいじんが、役割を草太さんに移した。

ここまでで『天気の子』と同じ状況が完成するんです。

主人公は、愛する人と世界、どちらを選ぶのか、救うのか。という問題に迫られるのです。

しかし『天気の子』と決定的に違うのは、かかっているものです。

『天気の子』では安定さを欠いた世界の上に人々は日常を築いていきました。

『すずめの戸締まり』では、みみずが暴れる=地震です。人々の命そのものが失われるのです。

そのため主人公であるすずめは、一度は愛する草太さんを犠牲にし、東京を救いました。『天気の子』では陽菜さんが一度勝手に人柱になったけど、『すずめの戸締まり』ではすずめの決断なんです。

主人公が世界の姿を選ぶ物語としては、ここで終わらせても問題ありません。

だけど好きなんです。草太さんのことが。

草太さんを返して。そのためなら自分が要石になってもいい。

この覚悟を持って、物語の後半は、旅の最終目的地、実家に向かいます。

自分の“後ろ戸”、逃げてきたものを開けるんです。

しかしいざ常世で草太さんの身代わりになろうとした時、すずめは『生きたい』と願うんです。怖くなかったはずの死が怖い、いや、本当は怖くないわけがない、死にたいはずがない。一人は怖い。

一緒に生きたい、と。

ここでだいじんは満足したのです。無償の愛が欲しっかった、“誰かの子ども”になりたかったけれど、それ以上にすずめのことが好きになってしまったとも考えられるかもしれません。

だいじんは要石となり、さだいじんとともにすずめたちの手によって犠牲となりました。その結果世界は一時的に救われました。


こうしてまとめると少しズルくないか。となるわけですね。

だいじんがラッキーアイテムすぎると。愛する人も世界も自分も救う、これは決断とは言わないと。


私はこう考えます。

これはお願い事のようなものです。

極めて不安定で、不確かなものです。

ただこの一時だけでも存えさせてください、というおまじないにちかいものです。

無力な人間が、それでも生きたいと願う。

これは決断の物語ではなく、常に胸にある願いを思い出す物語なのではないでしょうか。


すずめの場合は震災で母親を亡くしたことで、生きたいという願いは胸の奥底にしまわれてしまいました。


どうしても鑑賞者は震災ということに重きを置いてこの映画を観てしまう気がします。しかしこれはすずめの場合であり、鑑賞者がそれぞれの場合を持って、奥底にしまわれた願いを、すずめとともに思い出していくという見方もあるのではないでしょうか。


最後になりましたが、この映画は万人におすすめはしかねます。

すずめが思い出していく過程を丁寧に丁寧に描かれています。

それは大変恐ろしいことでもあります。


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