ハルを呼ぶ

 春はあけぼの。

 やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。









 

 

 僕は公園にいた。


 一面紫色のキャンバスに、下からオレンジをポトリと一滴垂らしたばかりのような、そんな世界で、僕は一人ベンチに身を任せていた。


 涼しい風が左右の木々を揺らし、吹き抜けていく。


 風は、葉だけでなく、僕の心もかどわかす。


 一切の感情が風に乗って消えてゆく。


 ただただ時間だけが過ぎてゆく。


 うんと向こうの山の隙間から、光の源が顔を出した。


 雲が光を反射し、紫色に染まった。

 




『ハル』は決まってこの時間に現れる。


『ハル』は出会いを教えてくれる。


 人と出会うこと、関わること、そしてその喜びを。










 僕は聞いてみた。


何故人は孤独なのだろうかと。



『ハル』は答えた。


どんなに仲の良い友達も家族でさえも、自分の全てを理解することは不可能だから。


だから人は孤独を謳うのだと。



 寂しいものだと僕は思った。



 そんな僕を見透かすように、『ハル』は微笑んだ。



 孤独だからこそ、人は関わりを求める。言葉を通して、感情を思考を共有するから、人は寂しくないのだと、『ハル』は言葉を続けた。




 桜が舞う。


 風が吹いた。


 肌寒い風が僕の頬をくすぐる。


 今度はどこか、空っぽだった僕の心を満たしてくれるような気がした。

 










 人は誰しも孤独である。


 だが同時に、人は一人だけでは生きていけない。


 この矛盾が美しいのだと、戻ってきた感情が僕に訴えた。

 






 ふと、横を見るともう『ハル』は消えていた。





 

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