第4話 温かい食事

「いやぁ、見事にらされたな」


 そう言い卑弥呼は服を脱ぎ始める。


「えっ!?ちょ、ちょっと!?」


「ああ、すまん服が濡れたからな、着替えるから少し後ろを向いてくれ」


 着替えている最中に卑弥呼が言う。


「そういえば、お主はわらはが居てから何百年ほどの未来からきたのじゃ?」


「…1800年くらい先です」


 一旦手を止め、


「1800年先とな!?ありゃぁ、わらはは数百年ほどと考えていたが、髪飾りが再び日の光に当たるまでそんなに経っていたとは」


「髪飾りに魔法を入れて僕を弥生時代に、こさせたんですよね」


 再び着替え始めた卑弥呼が、


「弥生時代…わらはがいた時代を未来の人たちは弥生と言っているのか」


「卑弥呼様がいた時代に作られた土器が弥生って言う所で見つかったので弥生時代って言うんです」


 卑弥呼は着替えて、振り向く。


「もうよいぞ、前をみろ」


 谷崎は前に振り向く。


「やはり未来は興味深いな……その…卑弥呼様は辞めんか?様呼びはなんかむず痒い、卑弥呼でええのじゃぞ、卑弥呼で良いと言ってるのに村の人は卑弥呼様、卑弥呼様と…」


 谷崎は考える。


「んんー卑弥呼さんはだめですか」


「おお…面白い、気に入った!これからわらはのことを卑弥呼さんと呼ぶのじゃ!」


 卑弥呼はうきうきしながら言った。そして、


「そういや、お主の名は何じゃ?」


「谷崎 晴人です」


 卑弥呼は考える。


「谷崎 晴人か…よし!お主のことを晴人と呼ぼう」


 卑弥呼は谷崎の服を見る。


「晴人の服も濡れとるな……」


 そう言い卑弥呼は大きな声で言う。


「誰かおらぬかー!」


「はい、こちらにおります」


 卑弥呼の言葉に応え、少女がやって来た。


「どういたしましたか」


「囲炉裏の火をつけてくれんかの。あと、こやつの服も用意してくれ」


「承知しました、しばらくお待ち下さい」


 そう言うと、少女は雨の中外に出てしばらくして薪と服を持って戻ってきた。


「お着替え下さい」


 谷崎に服を渡した。それは先ほど卑弥呼に近づいてきた彼らの服と同じようなものだった。


「火を起こさせて頂きます」


 少女は舞錐式まいぎりしきで慣れた手付きで火を起こし始め、ものの数分で火が付いた。


(昔の人はこんなに早く火が起こせたのか。現代人だと出来ないのが普通なのに)


 谷崎が火起こしに感激している中、


「すまないな、いつもしてくれて疲れるじゃろ」


「いえ、これも卑弥呼様のためですので、お食事は後ほどお持ちいたします」


「有難うな」


「いえ」


 少女は火起こしで使用した道具を持ち、彼女は部屋を出た。


「…で服の着替え方わかるか?」


「何とか…」


 谷崎は初めてこのような服を着るため、苦戦しながら着ていると、視線を感じた。その方向を見てみると…卑弥呼がガン見していた。


「な、何で見てるんですか!?」


「あ、え!す、すまんっ未来の服が珍しくて…」


 卑弥呼は顔を赤くして後ろを見る。

 谷崎はやっとのことで着替え終えた。


「終わりました」


「ほうほう…中々似合っておる。どうじゃこの服は」


 谷崎は苦笑いをする。


「ずっと着てみてたかったんですけど…やっぱり違和感があります」


「そうか、なら明日服が乾いた時に着替えれば良い。今日は我慢してくれ」


 卑弥呼は自分と谷崎の服を囲炉裏の近くにした。そして水を沸かし始めた。


「ほれ、ここに来てから水を飲んでいなかったじゃろ」


「ありがとうございます」


 谷崎は久しぶりに水を飲んだ。相当喉が乾いていたのだろう。ゴクゴクとすぐに飲み干した。


「生き返ったーー!」


 思わず声が出ていた。


「そんなに喉が乾いていたのか!」


 卑弥呼は笑った。それに対して谷崎は少し恥ずかしくなった。そうしている内に先程の少女が戻ってきた。


「卑弥呼様、お料理をお持ちいたしました、赤米と鮎の塩焼き、はまぐりの汁でございます。あちらの方にもご用意いたしました」


「こやつの食事まですまないな。有難う」


 少女は配膳をしていく。


「いつも悪いな、明日は休んでくれ」


「いえ、お気になさらず」


「いや、休んでくれ、お願いじゃ」


 その時の卑弥呼の顔はめちゃくちゃ可愛かった。まるでおねだりをしている子どものように。少女の顔が少し赤くなり、


「…分かりました。明日は休ませて頂きます…では失礼します。何かありましたら、またお呼びください」


「おう」


 卑弥呼は少女を見送り、


「よし、食事にするか…頂きます、ほら晴人も食べるぞ」


「は、はい、頂きます」


 谷崎も食べ始める。


 意外と美味しかった。何なら現代の食事よりも美味しく感じたくらいだ。


「んー美味しいのう!晴人はどうじゃ?」


「とても美味しいです」


「そうか!そうか!…あ、そうだ晴人、わらはに何か聞きたいことがあるかの?」


 食事をしながら卑弥呼は尋ねる。


「聞きたいことか……」


 谷崎は手を止めて考える。


「そうだ、卑弥呼さんは魔法で僕を昔に移動させたんですよね」


「そうじゃ」


「どんな魔法を使ったんですか?」


 卑弥呼はニヤッとする。


「聞きたいか?」


 卑弥呼は食べるのをやめる。


「わらははな、未来はどうなっているのかずっと気になっていたんじゃ」

 

 雨が降っている外を見ながら話し始めた。


「魔法で未来の人を連れてこれないか考えたんじゃが、時代の流れを超えて魔法を使うのは難しい」


 卑弥呼は自分の手を見る。


「ましてや数百年の壁を超えて魔法を使うことは困難なんじゃ」


 谷崎は思った、では何故、魔法が使えたのか。


「…ではどうやって魔法を使ったんですか」


「ふと思ったんじゃ、時代の流れに逆らわず、流れに乗れば魔法が使えるのではないかと」


「…どういう事ですか?」


 卑弥呼は顎に手を当てて考えながら話す。


「んーまぁ簡単に言うと時間はずっと流れているじゃろ。そしていつかは未来の時代になる」


 まだよく分からない。


「無理に未来へ魔法を使おうとせず、待てばいいのじゃ…でも待つだけではわらはは死んでしまう」


 髪飾りを外し指差す。


「この髪飾りに魔法をかけて石の箱に入れ、再び日光が当たった時に、魔法が発動し、わらはが生きていた時代に未来の人を移動するようにしたのじゃ」


 卑弥呼は谷崎の目を見つめ、


「そしたら時代の壁を超える事もなく、わらはが死んでも魔法は生き続ける、そしてずっと待っていると晴人が来たわけじゃ」


 そう言うと卑弥呼は笑顔になり、


「それで怖い人が来たらどうしようか思っていたんじゃが、晴人みたいな優しい人が来て良かったわ!」


「いえいえ、そんな…」


 卑弥呼は谷崎の手が止まっているのに気づいた。


「ほら手が止まっておるぞ、早く食べよう」


「そう言う卑弥呼さんも手が止まっていますよ」


「あ…」


 自分の手も止まっているのが気づき、卑弥呼と谷崎は笑う。


「よし、冷めぬ内に食べよう。次は、わらはが晴人に聞く番じゃ」


 そして卑弥呼と谷崎は相手の時代のことを交互に聞いた。


 谷崎と卑弥呼も久しぶりに心も温かくなったと思った食事だった。 

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