第3話 夕暮れの雨
「わらはの名はな……卑弥呼じゃ」
「卑弥呼……卑弥呼!?」
谷崎は驚きを隠せなかった。
「何故そんなに驚くのじゃ」
「だって卑弥呼はずっと昔にいた人だし!?」
卑弥呼と名乗る彼女はため息を付き、
「だから見たじゃろ、板が浮いたのを。これは魔法で浮かせたのじゃ。そう、お主を魔法で昔に移動させたのじゃ」
「………はぁ…」
谷崎はまだ完全に理解ができない。確かにスマホが浮いたのを見たがまだ自分が昔にタイムスリップしたのが理解できない。それに……
(教科書に載っている卑弥呼の絵と全然似ていない!?)
教科書に載っている卑弥呼は失礼だがそんなにかわいくない。でも目の前にいる卑弥呼と名乗る彼女はめちゃくちゃかわいい。
「…あなたは卑弥呼なのですね」
「もちろんじゃ。何故聞くのじゃ?」
彼女は首を傾げる。
「教科書に載っている卑弥呼の絵と似ていないので……」
「ほぅ!わらはが未来の書物に載っているのだな!」
彼女は嬉しい表情を浮かべる。
「それ少し見せてくれないかの!」
(今は教科書持っていないぞ…あ!確かスマホに撮った写真があったっけ)
「ちょっとそのスマホを返してくれませんか」
「スマホ…この板のことか?すまない、貸してくれて有難うな」
そう言い彼女はスマホを返した。
(圏外だ…本当にここは弥生時代なのか?)
そう思いながら谷崎はスマホを操作し始める。彼女は横からそれを見て、
「板に絵が出たぞ!?うぉ!?それに動いている!?これは魔法か!?」
(スマホに驚いてる…本当に卑弥呼なのか?)
「これは魔法じゃないです。これは未来の技術です」
「むむ、やはり未来は凄いな」
谷崎はフォトをタップし、たくさんの写真の中から探しお目当ての写真をタップする。
「これです」
「んー……何て書いておるのじゃ?」
「卑弥呼は邪馬台国の女王って書いてあります」
「ほう!…卑弥呼は邪馬台国の女王!……何じゃ?この絵に描かれている人は?」
谷崎はためらったが彼女が何度も言うので渋々言った。
「……これは卑弥呼です」
「ほうほう…これがわらは…わらはなのか!?」
彼女はかじりつくように見た。
「これが未来の書物に載っているのか!?これではわらはの美しい美貌が…!」
「お、落ち着いてください」
スマホを投げようとしたため谷崎は慌てて止めに入る。
「そ、そうじゃな。わらはが居た時から何百年も経っているからな」
そう言いながらも彼女はでーんと落ち込んでいた。
それを見ていた谷崎は彼女に言う。
「…あなたは自分のことを卑弥呼と言っていますが僕はまだ理解できません。自分が邪馬台国に居ることも」
「…そうか、どうしたら信じてくれるか…」
彼女が再び考えようとしたとき。
「卑弥呼様!」
「おお、どうした」
彼女の下に男たちが近付いてきた。
「最近は日照りが多く稲が心配です。雨はいつ降るのでしょうか」
彼女は笑顔で答えた。
「夕暮れに降る。そう心配するでない!」
その言葉を聞き男たちも笑顔になった。
「そうでございますか。有難う御座います」
「いや、わらはは占いをしたまでじゃ」
彼女がそういっても男たちは感謝をし続けていた。その男たちの一人が谷崎の事に気づく。
「この男は誰でしょうか。変な服を着ていますし、この村にいたでしょうか?」
彼女は慌てて答える。
「こ、こやつはな隣の村から引っ越して来たんじゃ、それで今、こやつに占いの衣装を着させて占っていたんじゃほ、ほら村の人たちに挨拶!」
「え!?あ、これからよろしくお願いします!」
谷崎は慌てて挨拶をした。
「あぁこれからよろしくな。すまない占いの衣装を変と言ってしまって」
「い、いえ、よく言われるんで…」
そして彼女にも謝る。
「申し訳ございません。占いの最中に話しかけてしまって」
「いや、謝ることではない。困ったらお互い様じゃからな」
男たちは彼女に会釈をした。
「では私達は戻ります」
「ああ」
彼女は男たちが見えなくなるまで待ち、
「危なかったのう…」
冷や汗をかいた彼女が言う。
「これで、わらはが卑弥呼と分かってくれたかの?」
彼女は谷崎の目を見て言った。
谷崎はまだ少し疑っていたが一応信じることにした。ここは今の日本じゃない。森が多いし、コンクリートで作られた家がない。現代にまつわるものが一切無いのだ。それに、『心の中でずっと行ってみたかったところ』にきた気がしたのだ。
「信じます」
「信じてくれて有難うな」
卑弥呼は優しい顔をした。
「お主には未来の事について聞きたい事が沢山あるんじゃ」
「僕も昔の事について聞きたい事が沢山あります」
卑弥呼は笑顔で、
「勿論じゃ、沢山応えよう」
二人は笑った。
その時は夕暮れだった。そう、夕暮れ。
ポツポツポツ
「ん?ああ!雨じゃ!早くわらはの家に入るのじゃ!」
「えっ!?」
そう言って谷崎の手を取って家に駆けつけた。
その日の夜は村に久しぶりに雨が降った。日照りが続いた村は村人たちの喜びに包まれた。
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