第22話 化けた姿は魅力的で
真那は今の配信を見つつ、昔の配信も見ていた。仮想スクリーンに表示された二つの映像を眺める。
見せ方。視聴者たちとの会話。問題がないどころか、素人の真那でも上手いと言えるほどのものだった。
「…………」
コメント
・…………
・…………
・…………
・…………
・…………
配信を見ている合間合間で湯飲み茶碗を口元に運び、お茶で喉を潤す。視聴者たちも真那を真似ているらしく同じく静かだった。コメント欄には無言であるかを示すようなコメントしか並んでいない。しかも、真那が静かに映像を乱してからずっと。
少々不気味にも思えるような異様な空間はみんな静かにお茶を飲んでいるという体で進んでいる。
「…………」
コメント
・ゴクゴク
・…………
・…………。裏切り者がいたぞ! ひっとらえろ!!
・…………。おう!
・…………。任せろ!
「…………」
コメント
・ゴクゴク。なんでバレた!?
・…………。逃がさぬ!
・…………。平和だな
・…………。そうだな
・ゴクゴク。ぎゃー!
・…………。なんでバレないと思ったんだよ……
・…………。それな
紛れ込むイレギュラー。それを捕らえるべく、動く者たち。ただ静観する人々。三者三様の動きを見せていた。色々とコメント上ではてんやわんやの様子になっている。しかし、実際には何も起きていない。
ただそのようなコメントを打ち込んでいるだけである。コメント欄で即興劇を行っているというのが適切かもしれない。真那は視聴者たちによるコントへ目を向けることなく、じっと朱莉の配信映像を見続けていた。
「………………。なるほど、よくわかりました。確かにこれでは多くの人には理解ができないですね」
そっと目を閉じて、思考を整理した真那は視聴者たちの言葉に同意した。
真那とて、朱莉を鍛えた一件から多少なりとも変化が発生していることは想像していた。その変化は微々たるもの。今までの行動を考えれば、配信では気にならないレベルで収まると高を括っていた。
「ここまでになるとは思っていなかったのですがね……。まぁ、なってしまったものは仕方ありません。今日はわたしが解説しましょう」
真那の推測が外れる結果となった。真那にとっては愉快な話であるため、問題などなく笑みを浮かべたいぐらいである。
コメント
・今後もお願いできますか?
「そうですね……。シノアさんと要相談ですが、視聴者たちが慣れるまではできる限りの力は尽くそうと思ってます」
原因は自分にある。それを認識しているため、責任は取るつもりだった。朱莉を鍛えることはもちろん今後もしっかりと継続する。ただ配信関係の補助もする。そうしなければ、視聴者たちを置き去りにしてしまうだろう。
以前の配信の様子と見比べながら、自分の経験を生かしてアドバイスをする。できることはこの程度。真那自身、配信の経験が浅いこともあってあまり大きな手助けはできない。できる範囲でどうにかしていくしかない。
コメント
・やったー!
・しゃー!
・お願いします!
「シノアさんと相談した上での決定なので今はまだどうなるか分かりませんよ? まぁ、先程のシノアさんの反応から考えれば拒否されるなんてことはなさそうですけどね」
先程の朱莉の様子を思い出して真那は苦笑交じりの笑みを浮かべる。大はしゃぎしている姿は容易に想像できる。生憎、今は配信を見返すことができない状態であるためその姿を真那が見ることはできない。
配信が終了すれば、見返すことができる。帰ってから見てみよう。そんな決意を固める真那だった。
コメント
・コラボあるか!?
・シノアちゃんの反応的にめっちゃ飛びついてきそうだけど
・わかる
・二人の少女が仲良くダンジョンに潜っている? 想像しただけで昇天しそうになるレベルの理想郷なんだが?
・行くな行くな! 帰ってこーい! もう二度と見れなくなるぞー!
・はっ! 危なかった
朱莉はコラボの話が上がれば、絶対に断らない。むしろ、喜んで受け入れる。今までの行動でそう悟った視聴者たちは喜びを示していた。
真那が時々ではあるものの、朱莉の解説配信をする。そして、いつかコラボもする。それが確信を持てたのだ。狂喜乱舞するのも理解できる。
「さて、この話はまた今度ということで。解説を始めていきましょうか」
気を取り直すように手を叩き、本来の方向へと話を戻した。
「ところで皆さん。特にここが分からないというところはどこでしょうか? 身体の動き自体はいつも通りなので恐らく魔術関係のことを聞きたいと思っていると推察したのですが」
コメント
・そこです! そこ! 魔術がわけワカメなんです!
・魔術スキルのランク上げたのはわかったんだけど、それ以上何もわからなかった! どうなってるんですか、マリナさん!
・魔力操作でどうこうしたのかなとは思うんだけど、あれっとあそこまでになったけ?
「コメントで予想通り、魔力操作で合ってますよ。ただかなり特殊な使い方をしているので普通とは大きく違っていますが」
『一掃せよ、ファイヤーアロー!』
魔術を改変し、無数の炎の矢を放つ朱莉。10匹前後いるモンスターたちが次々で矢に貫かれていき、その肉体を灰へと変えられていく。本来不利なはずの人数差。それをものともせず、圧倒的な物量で制圧していた。
今までの堅実な姿が偽りだった。いや、まったくの別人ですと言われたほうが納得できる。
「魔力操作で一つの矢を分裂。それによって一つ一つでは弱まった威力を再び魔力操作を用いて増加、収束させたという感じでしょうか? その作業を付け加えた詠唱式で行っているみたいですね」
ただ魔力を籠めるだけでは威力は元に戻れど、魔力消費が大幅に増加してしまう。しかし、個々の炎の矢を細く小さく収束させるのであれば話は変わってくる。少量の魔力で貫通力を上げたそれを大量に用意する。
その結果が、先程の光景だ。相手を貫通することに重きを置いた魔術で圧倒的な物量を用いて押し通したのだった。
コメント
・つまり?
・滅茶苦茶すごいことやったってこと……?
・まぁ、そういうことだろ
・今までのシノアちゃんはいずこへ?
・彼方に消えていったらしい
「そんな反応になるのも仕方ありませんね。ただ、あくまでこれは始まりです。今後は今までの比にならない速度で異常な成長をしていくでしょう。確実に」
確信めいた言葉。
それを言い終えた真那は湯飲み茶碗に残っていた冷め切ったお茶を飲み干した。そして、スクリーンに映る朱莉の姿をじっと見つめる。その視線はどこか冷たげである一方でどこか熱が籠っていた。
〈あとがき〉
体調が戻ったので更新を再開します。お待たせして申し訳ありませんでした。
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