とかく大人は忙しない その5
その恰好でそんなことを言うと、店内で注目の的になってしまう。案の定、近くを通っていた店員からは怪訝そうな顔でこちらを見てきた。
とりあえず、僕は協会にも話したことをそのまま同じ内容を女神にも話す。
フォレスティアという異世界へ行くモニターに選ばれたということ、それが全くのデタラメで危うくは臓器売買をされそうになったこと、先に騙されて行方不明になっていた知人を助けに行ったこと……。
「ほう、フォレスティアねぇ……」
僕の言った異世界の名前に女神が反応を示した。
「ご存じなので?」
ネットで検索しても見つからなかったから、異世界に通じてる女神が知っているのならそれは存在しているということなのだろう。
「いや、聞いたことないな。きっと私のような女神が居ない世界かそもそも存在していないかのどちらかだな」
「女神がいるといないとじゃ大きく違うんです?」
「女神にもネットワークが存在しているからな。その世界自体の管理と他の世界との橋渡しをしている。まぁ、あまり公にはされていないがな」
女神はご自慢のツインテールを揺らしながら答えた。公にされてないことを僕に喋っても平気なのだろうか?
「公にされてないだけで、禁足事項ではないから別に平気だろう。もし怒られたのならそれは眞田、お前のせいにするからな」
「なんでですか」
そう言いながらコーヒーをすする女神。どうして僕のせいにするのか、勝手にしゃべったのは女神の方だというのに。
そもそも異世界の女神が僕にこんなにフランクに話過ぎて大丈夫なんだろうか。その、威厳的に。
「そもそも、モニターに当たっただけで異世界転生とか虫が良すぎるだろ。そんな軽いノリで異世界に行けると思ったら大間違いだぞ」
「確かにそうなんですけどね、ワンチャンあったりするじゃないですか?」
「わんちゃん? 犬のことか?」
女神がえっ?という表情をする。どうやら若者言葉に馴染みがないらしい。
「ワンチャンスってことです。掴めるものなら藁にだって縋りたいじゃないですか。僕だって女神さまがなかなか面接で合格って言ってくれないですし?」
僕が試験に合格できないであろう要因を前に言ってみる。そんな僕を女神は鼻で笑った。
「ハンッ。毎回言っているだろう? 眞田、お前には素質ないのだから、異世界転生は無理なのさ。というか、詐欺ひっかかったというのは囮とか言っていたが本当は信じてたんじゃないだろうな? 可哀そうに、異世界に行きたいがあまり……」
女神はよよよと泣く真似をする。
「ちゃんとそこは分別がついてます。僕を落としまくっている女神さまに心配される義理はないです」
「ほう。いうじゃないか。若輩者のくせに」
僕と女神がにらみ合う。きっと中心では火花が散っていることだろう。
「さて、僕の話は終わりなのでそろそろ帰りますね。ごちそうさまでした」
僕が席を立とうとすると、
「待て」
女神がそれを止める。
「眞田、二次会と行こうか?」
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