悪い人はなんでも思いつく その1

 ある日、こんな手紙が僕の家へ届いた。僕宛で。

 転生試験の協会から手紙は大体試験の合否の結果送付くらいしかなかったから、試験がないシーズンに手紙が、もしかこれは都市伝説としてまことしやかに噂されている追加合格というやつじゃないか!と内心ワックワクのドッキドキだった僕の大きい期待を返して欲しい。訴訟も辞さない。

 それにしても、異世界転生に関する詐欺行為とか流行り始めているのか。悪いやつはなんでも商売にしてしまうあたり、商魂逞しいとは毎回思っている。

 そんな奴らに目をつけられてしまうくらいなら、試験の合格枠を大幅に増加してしまった方がそんな犯罪をなくなるし、行きたい人は異世界行けるからウィンウィンになると思うんだけどなぁ。

 僕とか僕とか僕とか、真っ先に合格出来ないかなぁ。

 そんな妄想を考えながら、僕は登校カバンを持って自室を出た。

 リビングでは両親たちがトーストにジャムを塗りながら朝のニュースを見ていた。ニュースの内容は協会が手紙を寄こしてきた例の詐欺事件についてだった。

 どうやら一か月で五人が行方不明になったり、総額で二億もの額が被害にあったりしているようだ。かなりのものである。

「千紀おはよう。みてみて、異世界転生の詐欺だって。千紀も気をつけなさいよ」

「そうだぞ、変な人の話に容易に乗っからないようにな」

 両親は僕の顔を見るなり、口を揃える。僕がそんなに騙されやすいカモと思っているのだろうか。

「ほら、あんた異世界関連のことになると見境なくなるでしょ。心配なのよ」

 そんなに見境なくなった覚えはないんだれども。いたって普通なんだけどな。

「試験受けている協会から詐欺には気をつけろよっていう注意喚起の手紙が来たから大丈夫だよ。僕だってそれくらいの線引きは出来るって」

「本当かしら、心配だわ」

 母親はまだ心配しているようだったけれど、大丈夫だから、それくらいの危険察知能力がなかったら異世界行けないからと心の中で念じておいた。

 とりあえず、椅子に座って用意された朝ごはんを口に押し込んで牛乳で流し込んだ。

「いってきまーす」

 僕は家を出て高校へと歩き出す。十数分の通学ルートをトコトコと歩いていると、


 何やら視線を感じる。


 足を止めて後ろを振り返る。周囲は同じように通学する学生たちが見えるだけで怪しい人影はない。

 疲れて誰かに見られている気がしているだけかなぁ?とまた歩き始めるが、また視線を感じて後ろを振り返るが、やはり異変はない。

 一体何なんだ。僕は怖くなって視線を感じたまま、速足で高校の校門をくぐった。

 息切れをしながら下駄箱のところまでやってくると視線は感じなくなる。やっぱり誰かに見られていたのだろうか?っていうか誰に?

 僕の頭にはハテナマークが浮かぶばかりだった。

「おーい、サラダチキン、おいすー。どうした、そんな深刻そうな顔をして?」

 遅れて下駄箱にやってきたクラスメイトが心配そうに僕のことを覗き込む。

「登校中視線を感じて、ここまで速足でやって来た」

「視線……、ハッ! もしやあちゅーい女子の熱視線か!」

 いきなり何を言っているんだこいつはと、僕は冷ややかな目でクラスメイトを見る。

「おう、なんだ?」

 別のクラスメイトもやってきて話に混ざる。

「サラダチキンが女子から熱視線受けたんだってよ」

 いや勝手に話を改悪するな。

「まじか、うらやましいなぁ。俺も受けてみたいなぁー女子からのあちゅーい視線」

「だろだろー。モテモテさんは羨ましいぜぇ」

 クラスメイト二人が表現できない動くでくねくねし始めるので、周囲にはギャラリーがどんどん集まってくる。

「いや、完全な誤解だって」

 どんどん収集がつかなくなりそうだし、僕はその二人をそっと放っておいて教室の方へ向かった。


 授業中は特に視線を感じることなく一日を終え、僕は学校を後にする。

 校門を一歩外へ出ると、

「まただ……」

 朝と同じような視線。ぐるっと周囲を見回してみても僕のことを見つめる人影は確認できなかった。

 やや早歩きで家へと向かう。なんで姿が分からない奴に付きまとわれなきゃいけないのか、僕のストーカーなのか?

 もうちょっとで家に着くから何とか逃げ切ろうとした最中である、

「すいませーん。そこの制服を着たお兄さん」

 誰かが僕のことを呼び止めた。足を止めて振り向くと、そこにはパンツスーツ姿の女性がいた。

 僕のことを追いかけて来たのか少し息が上がってて、うっすらと汗をかいていた。

「……なんですか?」

 僕は少し相手の女性を睨むような感じで見る。

「お兄さん、異世界転生に興味はある?」

 女性が言い放った言葉はとんでもないものであった。

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