スローライフには程遠く その6
「待って、家まで送るよ」
「いいよ。どうせ近所なんだし」
ナギが途中まで送ると申し出てきたけれども、僕はなんだか照れくさくて断る。
「いいの。呼び出したのは私なんだし、おばさんに何か聞かれたときは私が答えれば千紀だって楽でしょ?」
まぁ、それは確かにそうなんだけれども。
「あー、もしかして恥ずかしいっていうやつ?」
「ちっ、違います」
「照れちゃってぇー」
そんなやり取りをしながら、僕たちは外へ出た。
「そういえば、現世で何を楽しめばいいのか悩んでるって?」
「盗み聞きしてたんだな」
僕はナギをじとーっとした目で見る。
「盗み聞きする気はなかったんだけどねぇ。聴こえちゃって」
ごめんごめんと軽くナギが謝る。
「ここ数年勉強ばかりしてたんだから、ちょっとは羽を伸ばしてみたら? それか、勉強ばかりするのが性に合ってるのなら、資格取ってみるとか」
「資格ねぇ……」
確かに資格取っておけば、もしアースキャリーに行った時に役立つことが出来るかもしれないからなかなかいいかもしれない。早速帰ってから色んな資格について調べてみようかな。
「資格の勉強とかしてみようかな」
「やっぱり千紀は勉強ばかりする気なのね。まぁ、荷物持ち要員欲しいときはいつでも私が呼び出せばいいか」
ナギさんや。やれやれー、みたいな表情で僕のことをみていますが、いつでも呼び出せる便利召使要員としてカウントするのはさすがに勘弁していただけませんかね?
「でも今日は本当にありがとう。バカ兄貴あー見えてもペーパーの結果が三点だって知って一週間くらい落ち込んで自暴自棄になっていたの。千紀に勉強教えて貰ってやる気も出てきたみたいだし、しばらくは勉強に勤しんでくれると思うけど、また勉強教えて欲しいときは連絡する」
そんな感じには見えなかったけど、哲さんもかなり落ち込んでいたんだなぁ。その哲さんのことを心配して僕に連絡してくるナギも相当の兄思いだとは思う。本人は絶対に認めたくはないんだろうけど。
そんなことを考えていると、僕の家が見えてきた。ガレージに車が無かったので、親は買い物へと出かけて行ったのだろう。
「親出かけているみたいだし、ここで大丈夫だよ」
「そう? じゃあ、また学校で」
「うん、学校で」
ナギに手を振って別れた後、鍵を使い家の中へと入る。
今日はなかなか濃い一日だったなぁ。人に教えるのがあんなに大変だとは思わなかった。
それに当面の目標というかビジョンは決まったし、これから部屋で調べなきゃな。
ダラダラ過ごそうとしたけれども、スローライフには程遠いな。
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