異世界転生試験に落ちまくっているので、とりま現世を謳歌しようと思います

黒幕横丁

人の顔を見て不合格っていうのって失礼じゃないですかね!

人の顔を見て不合格っていうのって失礼じゃないですかね!その1

 ――異世界転生。それは人々の希望か、はたまた神の気まぐれか。

 現世に別れを告げ、新たな地で新たな生を歩む。

 新天地で待っているのは無限の可能性を秘めた今までとは違う、まったく新しい自分である――


 さぁ、豊かな水源大陸【アースキャリー】で新しい人生を謳歌してみませんか?

 記念すべき第十回、全国異世界転生者輩出試験はまもなく受付が終了!

 貴方も試験に合格して素敵な世界でセカンドライフを送ろう!

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 ◇


 創作の話だと思っていた異世界転生が現実のものとなったのは今から六年前の話になる。

 突如、【アースキャリー】という異世界からその世界の女神がやってきたのだ。その女神がどうにかこうにかして僕らの国の政府のお偉いさんたちと会談をし、異世界に転生者を輩出するようにしたのだ。

 そうやって異世界へ転生できるようにはなったのだが、まぁ、異世界転生をしたい奴なんて希望すればゴロゴロいる。僕だってそうだ。物語の中でしか味わえないような体験ができるなんてまさに夢のようじゃないか。

 だからかどうかは定かではないけれども、【アースキャリー】側は条件を出してきたのだ。


 転生したければ、年に二回ある異世界転生試験に一度でも合格しなければならない。


 異世界側も優秀な人しか転生を許してくれないらしい。

 そんな困難を乗り越えて、見事試験に受かることができれば、夢の異世界での生活が待っているということである。


 まぁ、転生っていうだけあって、一度は死ななきゃいけないのだけれどね。


 女神は自分の異世界の行き来は出来るらしいが、人を向こうの世界へと持っていくのは出来ないそうだ。

 だから異世界へ行ったらそれっきり元の世界へは帰ることが出来なくなる。

 まぁー、そこのあたり、アフターフォローがあるらしいから、僕は安心して異世界転生を目指してこの試験を挑むだけなのだ!



「眞田、不合格」

 僕、眞田千紀さなだちきがワクワクした気持ちで最終試験である面接会場へ入った途端、最終面接官である【アースキャリー】の女神が頬杖をつきながら僕の顔を見てそう言い放つ。

「人の顔を見るなり不合格っていうの、あまりにも失礼すぎませんかね!」

 僕は女神に対してぷんぷんと怒りながら、パイプ椅子に腰かける。

「おい、不合格っていうのが聞こえなかったか? 退室しなさい」

「しません!!!」

 僕と女神の間の空間はバチバチと空気が張り詰め始める。その様子を見て、ほかの面接官がまぁまぁと女神を宥めた。

「一応優秀なペーパー試験の結果ですし、ここまで残っているので、一応面接という形だけでも……」

「……眞田、お前がこの試験に臨んで何回目だ?」

「えーっと、今回が十回目ですね。フル参加です!」

「そうだ、全回試験参加だったな。そんなに参加して合格できなかった要因は何だと思う?」

 女神から投げられた質問に僕は少々思慮したのち、

「その時の運ですかねぇ!」

 満面の笑みで答えた。

「違うわっ! 眞田、お前に素質がないからじゃ!」

 いきなり女神が立ち上がり、僕に掴みかかろうとするのを一生懸命ほかの面接官たちが止めに入る。

「え? 僕はこんなに素質や才能に溢れている青年だっていうのに?」

 僕が真顔で返すと女神がさらに掴みかかろうとする。

「やっぱり、こいつには現実というものを見せてやらないといけないようだな」

「君っ、これ以上ウォーリマリア様を刺激しちゃだめだ。もう面接は終了したから帰ってもらって大丈夫だよ。結果は後日郵送するから」

 女神を抑えていた面接官がそういうので僕はしぶしぶ面接室を後にする。

 まだ僕の異世界に行きたいという気持ちを全部伝えきれていないというのになぁー。と、しょんぼりとした気持ちでトボトボと家路へと向かった。

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