(GL)恋してニューゲーム
ウタカ タカユ機
第1話 恋してニューゲーム
「はぁ〜、」
ハセミはとぼとぼと、一人帰り道を歩いていた。
ハセミは疲れていた。
仕事は毎日残業でくたくたになるまで働き、休日も疲れが取れずに、家事を片付けるだけで精一杯。
もう何ヶ月も、仕事先と家を往復するだけの毎日だった。
正直もう、何のために仕事をしているのかも分からなくなっていた。
その日、いつもと変わらぬ帰り道の途中、ハセミはふと顔を上げた。
何か、違和感があった。
見慣れたいつもの通りに、ビルの2階くらいの高さに、見慣れない、青白い光がまばゆく輝いているのが見える。
目を凝らして見ると、光の中に何かいる。
というより、何かが輝いているのだ。
それは。
少女だった。
ほっそりとした体に、髪は白く長く、背には白い翼。
(天使だ…)
ハセミにはそれが天使に見えた。
(天使おる)
ハセミはぼんやりとそれを眺めていると、天使(?)の方がハセミに近づいて来た。
「ウタガワ ハセミさん、ですね」
天使喋った。
「は、はい?!ソウディスガ?」
まさか話しかけられると思っていなかったので、挙動不審になってしまう。
天使(?)は近くで見るといよいよ可憐だ。
少女らしい細い手足に、長い髪やまつ毛が、一本一本までがつやつやのふさふさ。
顔は無表情だが、その分人間離れした神秘的な雰囲気がある。
「残念ですが、貴女は近いうちに死にます」
「はいぃ?!」
唐突な。ハセミは頭が追いつかない。
「なっ、ななな何でですか??」
「貴女は、このまま帰ったところで家に潜んでいた強盗に殺されます。ガメオベラ〜」
天使(?)は謎の呪文を唱えた。なんだそれ。
「ど、どどどうにかできないの??」
「運命は決定されましたのでもう覆すことは出来ません。
わたしは神パワーによって貴女が殺される20分前の貴女に直接語りかけています」
ハセミはぽかんと口を開けた。
しぬ?
ただ仕事先と家を往復するだけのつまらない毎日だったけれど。
しぬ?
そんな理由で?
天使(?)は続ける。
「ですが、
貴女は生まれてこれまで、特に悪事らしいことはしていません。
ですので、神は貴女にお慈悲をくださいました」
「…??」
「貴女の望みを叶えて差し上げます」
「えっ…」
何でも?いや何でもとは言ってないか。
「あとこれはサービスですが、20分後に起きる、殺される記憶や感触にはアクセスできないようにしておきます。サービスです」
「えっ」
「死んだ実感がわかないから、というのであれば記憶を開封しますが、死ぬほど苦しいですよ」
「えっ、えっ、あのっ、」
早口でまくしたてる天使(?)に、ハセミは焦った。
「付き合ってください」
はっ。
焦ってへんなことを口走ってしまった。
目の前で美少女が喋っているのを見ていたら、もうちょっと話を聞いていたいな、などと思ってはいたのは確かだが。
「いいですよ」
「いいんかい!!」
さらに予想外の返答に、ハセミは思わずツッコミを入れてしまった。
「ええ、たまにいるんですよね、そういうお客さん」
「アタシは客かい!」
なんで生きるか死ぬかの(死んだらしいけど)瀬戸際に天使(?)にツッコミを入れているのか。
「…とゆーか、客ってことは、
そーゆーなに、
今だけの関係ってこと…?」
「そうですね。
というか、大抵の人間は、生まれ変わったら記憶をなくしてしまうので」
「そっ、
だから、今だけの関係だから、誰とでも付き合う、の?」
「ええ、まあ…」
それまで無表情だった天使(?)がさっと表情を曇らせた。
「えっ、ひょっとして…」
ハセミは考える。
この天使(?)さん、過去にこんな感じでお付き合いしてた相手が何人かいた?
天使(?)さんは毎回真面目にお付き合いするけど、生まれ変わった人はみんな天使(?)さんを忘れてしまった?
(ってこと??)
「…それより、他の望みでもいいんですよ。
見たい景色とか、会いたい人とか、ないですか?」
天使(?)は向き直ると、元の無表情に戻っていた。
「わかりました」
「?」
ハセミはそっと天使(?)の手を握る。
「天使さん!!
私はあなたを忘れません!!」
ハセミの宣言は、夜の街に高く響き渡った。
「ハセミさん…」
美少女の姿をしたものは、ハセミをまっすぐに見つめてこう言った。
「わたし、分類的には死神です」
「いや、そこは今いいやろ!」
そしてハセミのツッコミも響き渡った。
おわり
(GL)恋してニューゲーム ウタカ タカユ機 @Utaka_Takayuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます