第36話 敵のアジトへ ~ソフィアサイド~

あやつはなんであそこまで怒るのじゃ。

たかが酒を飲んで、服を着ずに寝ただけでのぅ。

だいたい細かいことを気にし過ぎじゃ。

いちいちちまちまと……

もうちょっとおおらかになれんのかのぅ。


あやつに小言を言われた翌日。

ワシたちは……えーっと……

誰だっけ?

なんとかってやつの家族を助けるために南にある砦を目指すことになったのじゃが…


「うー、暑いのぅ」

「暑いのぅ暑いのぅ暑いのぅ」


「ゾルダ、うるさいって」

「俺だって、誰だって暑いんだよ」


小娘の娘がおる所為で、剣の中には戻れずにおる。

なんでこんな暑い思いをしないといけないのじゃ。


起伏の激しい砂漠を登ったり降りたりで……

それだけでも疲れるのにこの暑さだからのぅ……


「もう疲れたのじゃ」

「どこかで休みたいのぅ」


「あのさ……」

「いいじゃん、ゾルダはさ」

「移動魔法で浮いているのに、どこに疲れる要素があるんだ」


「これはこれで疲れるんじゃぞ」

「ダラダラと力を使うからのぅ」


あやつは移動魔法は疲れないと思っているのじゃろうか……

確かに身体としては楽じゃが、地味に疲れるのじゃ。

いっそ一気に力を使った方が楽なのじゃがのぅ。


「あーっ、暑いのぅ」

「この服、脱いでよいか?」


「頼むから外ではやめてくれ」

「ゾルダに羞恥心が無いのは分かったけど、俺が恥ずかしい」


「ボクも恥ずかしいからやめてよねー」


人というのはそういうものなのかのぅ……

正確にはフォルトナは人ではないが、あの種は人と同じような生態なのじゃろう。

こんな布切れを着ている着ていないで、態度が全然違うのじゃなぁ。

暑ければ脱ぐ、寒ければ着るでいいと思うのじゃが……


「フォルトナ、あとどれくらいで着く?」


「そうだねー」

「あともう少しかかるかなー」

「ほら、あそこに見える岩山のところだよー」


「微かに見えるような見えないような……」

「あれは蜃気楼じゃなくて?」


「ボクは目がいいからはっきり見えるよー」


「俺はほとんど見えないよ」

「暑さでゆらゆらしているし、幻にも見えるし」


あぁ、あそこか。

あやつには見えにくいかもしれんのぅ。

距離はありそうじゃから、今しばらくかかりそうじゃな。


「さあー、頑張っていこー」


小娘の娘は楽しそうじゃのぅ。

いつでも脳天気で、あまり考えていない気がするのじゃが…


---- さらに1時間程経過


しばらく歩いておったが……

この暑さだけはなんとかしたいのぅ……

おっ、そうじゃそうじゃ、こうしよう。


「ブリザード」


向かう方向に氷魔法をかけて、その上を移動する。

われながら名案じゃ。


「ゾルダ!」

「何やっているんだ」

「敵に見つかったらどうするの?」


またあやつは細かいことを……


「そうならんように、最小範囲に留めておるじゃろ」

「どうじゃ、このワシの気遣い」

「それにまだだいぶ先じゃから大丈夫じゃ」


「それはそうかもしれないけどさぁ」

「敵だって用心深いだろうし、見つかってからでは遅いと思うけどな」


「そうなったらそうなったで、全員なぎ倒せばいいだけじゃ」

「敵に知らせがいかなければ気づかないしのぅ」


「行った仲間が戻ってこなかったら、何かあったって思うでしょ」


「それまでに方をつければいいだけじゃ」


「…………」


どうじゃ、恐れ入ったか。

言葉も出まい。


「砦に近くなってきたよー」

「じゃ、ボクは先に行って状況見てくるね」


小娘の娘はそう言うと、ささっと行ってしまいおった。

ん?

これはチャンスじゃな。

小娘の娘が居なくなった隙にと……


「あっ、ゾルダ」

「剣の中に入ったな」


「小娘の娘がおっては入れんかったからのぅ」


「ズルいなぁ」


はーっ。

どういう構造になっているのかはよくわからんが……

実体化せずに剣の中におると、暑さ寒さを感じずに済む。

もう我慢できなかったのじゃ。


「いいから、気にするな」

「おぬしはさっさと歩け」

「なんとかとかいうやつの家族をたすけるのじゃろ」


「はいはい」

「しょうがないなぁ」


あやつは不満そうな顔をするも、もくもくと歩いておる。

単なるバカなのか、人の役に立ちたいという思いが強いのか……

どっちにしても、どんな時でも真面目にやっているからのぅ。

後先考えずに体が勝手に動くのじゃろう。


「そういえば、ゾルダ」

「クロウって名前思い出せた?」


「ワシがか?」

「なんで思い出さなきゃいけないのじゃ」


「だって何か知っていれば対策も立てられるじゃん」

「何をしてくるか分からないとやっぱり怖いし」


とは言えのぅ……

記憶を辿ってみても、どうにも思い出せんのじゃ。

確かゼドの周りには何人かおったような覚えがあるのじゃが……

その中にクロウってやつもおったのじゃろうと思うがのぅ。


「うーん」

「ゼドの周りに金魚の糞のようについておったうちの誰かじゃとは思うが……」

「たぶん、言葉も交わしたことがないとは思うぞ」

「ただ、見れば分かるかもしれんがのぅ」


「そうか」

「まぁ、ならこれまで通り、出たとこ勝負ってことかな」


「おぬしにしては珍しいのぅ」

「ちまちまと細かいくせに」


「いろいろと考えたい思いはあるけど、何もないなら仕方ないじゃん」

「腹をくくるしかないよ」


まぁ、何か思い出せたら思い出しておくわ。

剣に封印されていた時間が長い所為もあるのかもしれんが……

昔の記憶が思い出しにくくなっておる。

ふとした時に繋がるじゃろうから、気にはしていないがのぅ。


「さぁ、あともう少しで砦の近くに着きそうだ」

「ゾルダも剣の中で休んでいたら、しっかりと働いてもらうからね」


「おぬしに言われずともわかっておる」

「ワシはやるべきことはきちんとやるからのぅ」


正直指示されるのは嫌じゃがのぅ。

何故か、あやつからの話は聞いてしまう。

封印を解いてもらうことで近づいたが、あやつといると退屈せんしのぅ。


今回も戦いが出来そうじゃし、ますます楽しみよのぅ。

さてと、なんとかという奴の家族を逃がしたら、ひと暴れするか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モブな転移勇者♂がもらった剣にはチートな史上最強元魔王♀が封印されている 光命 @hikari_mikoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ