第23話 アグリとゾルダの関係を考察してみた ~フォルトナサイド~

何、あの魔法。

あんなでかいイノシシを焼き尽くしちゃったよー。

どう見てもおかしいでしょ、あの力。


おつきの人はいったい何なの?

何者なの?

あんなめっちゃ強い人を従えているアグリって……

もしかして……もっと強いの?


さっきはあまりダメージ与えられていなかったみたいだけどー。

もしかしてカモフラージュ?

おつきの人に花を持たせた?


なんか頭の中がグルグルするよー。

どう接していいかわかんなくなっちゃったー。

今まで『小娘の娘』って言われてムカついたから、言い返していたけど、大丈夫だったかな。


「おい、小娘の娘!」


「はっ、はいっ」


思わず声が上ずる。


「さっきからかなり静かだが、何かあったのか?」

「心ここにあらずって感じじゃぞ」


そりゃー、あんなの見せられれば心はどこかに行っちゃうよー


「な……なんでもないよー、ゾルダ……」


あれ?

そういえば、呼び捨てでいいのかな?

呼び捨てでも怒られるかなー


「ん?」

「何故かさっきから、ワシの事を名前で呼んでおるのぅ」

「『おつきの人』とは言わないのか」


もう『おつきの人』なんてもう言えないよー。

そんなこと言ったら何されるかわからないよー。


「いや、あの、その……」


「なんかしおらしいのぅ」

「意固地になって、『おつきの人』と言っておったのに」

「もう終わりか」


「も、もう意地を張るのを止めただけですー」

「こ……これからは、名前で呼んであげる」


ちょっと強気に出ちゃったけど、大丈夫かなー。


「ワシは変えんぞ、『小娘の娘』は『小娘の娘』じゃからのぅ」


ちょっとムカつくけど、あれだけの強さを見せつけられると逆らえないよ。

もう好きにすればいいさ。


「も、もうボクのことは好きに呼んでいいよ、ゾルダ……様……」


あっ、思わず『様』までつけちゃったよー。

ゾルダに聞こえてなければいいけどなー。


「おい、お前!」


ビクッとなりながら、ゾルダの顔色をうかがう。


「『様』まではつけんでもいいぞ」

「あやつからも呼び捨てだし、『ゾルダ』でよいぞ」


「……わかったよー」


やっぱり『様』まで聞こえていたんだ。

でも呼び捨てで良かったんだー。

さっきは呼び捨てで呼んで大丈夫かって思ったけど、そこは気にしていないみたい。


それでもやっぱり怒らせないようにしないとなー。

ボクがあの炎を喰らったら、あっという間に死んじゃうよ。


想像しただけでも、怖い怖い怖い。

出来るだけ穏便に済ませるようにしよう。


「そういえば、フォルトナ」


不意にアグリが話しかけてきた。


「な…なに?」


「ここの洞窟は入口は1つしかない?」

「隠された入口とかそういうのはないのかな?」


「そうだね」

「ココしかないかなー」


「そうか」


アグリはどうしていくかを考えているみたいだ。

その考える姿を見ても、強者のオーラは感じない。

アグリはもしかしたらそんなに強くないのかな。

でもそしたら、なんでゾルダは一緒にいるんだろう。


いろいろな考えが浮かんでは消えて浮かんでは消えてを繰り返す。

いまいちアグリとゾルダの関係性が、ピンとこない。

何か言えない秘密があるんだろうか。


「入口が一つしかないのであれば、正面突破じゃろ」


「そんなに簡単には行かないよ」

「正面突破するにしても、慎重に進んでいかないと、絶対どこかでやられちゃうよ」


「そんなものかのぅ」


二人の会話そっちのけで、ひたすら今後どうしていこうか考え込んでしまう。

……

もしかして……

ゾルダが本当の勇者で、アグリが付き人?

それならこの関係は納得いくんだけどなー。


ゾルダが真の勇者だということを隠さなければいけない理由があって……

アグリが傀儡の勇者として前に立っている。

そうだ、そうに違いない。


そのことを知られてはならないのであれば、ボクもしっかりと隠していかないとねー。

ボクから漏れるようなことがないようにしないとねー。


さてと……

ボクの中で結論が出たので、あとはいつも通りにしておかないとね。


「アグリ、ところどころ隠れるところはあるからー」

「様子を見ながら進んでいけばいいよー」

「魔物が出てくるのはわかってるけど、見張っている感じはしないからー」


「了解」

「それなら進んで、魔物に遭遇したら、隠れてやり過ごして」

「少しづつ進んでいこう」


ゾルダのさっきの力だと、魔物は倒せそうだけど、力を使い切っちゃったら、いざというときに、問題が出てくるかもしれないねー。

力を温存して進んでいくのがいいとは思うねー。

アグリはさすがだねー。


「それでももし見つかったら……」

「ボクとアグリでなんとかしていこうよー」

「ゾルダには力を温存しておいてもらうよー」


「そうだな」

「ゾルダに頼りっぱなしではいけないしな」


「おぬしも小娘の娘もわかっておるな」

「その心がけは良いぞ」


真の勇者であるゾルダにはさっき使った力を回復してもらって、最後に力を出してもらわないとー。

奥に行くまではボクも頑張らないとねー。


「おい、小娘の娘」


ゾルダが声をかけてきた。


「なにー」


「さっきまでのしおらしい感じがなくなったのぅ」

「また何かあったのか」


「なんでもないよー」

「ちょっとさっきまでお腹が痛かっただけ」

「もう落ち着いたから大丈夫だよー」


「そうか、それならいいのじゃがのぅ」


「えっ、フォルトナ、お腹痛かったの?」

「大丈夫か?」


「うん」

「大丈夫だよ、アグリ」


ボクはアグリとゾルダの秘密は絶対に守らないといけないと思った。

真の勇者を隠すことが魔王との戦いに向かってすごく重要なのかなと思う。

きっと本当の勇者がすぐ見つかると、何かが起きるんだ。

魔王軍のめっちゃ強い奴がすぐ来るとか。

そうならないためにも、悟られないように、普通に普通にしていかないとね。


「さぁ、洞窟の中に入っていこうよー」

「ゾルダはボク達の後ろで休んでいてね」


洞窟に入ると慎重にちょっとずつ前に進んでいった。

途中魔物に何回か遭遇したけど、やり過ごしたり、ボクとアグリで倒したりしていった。

そして、洞窟の最深部、開けた広間のような場所の入口にたどり着いた。


「あの真ん中にあるのが、祠だよー」


広がった空間の中心に祠が見えた。


「あそこに風の水晶を置けばいいよー」


たぶんだけど、もう水晶はないのだろうねー。

周りを見ても魔物の姿は見えないし、進んでいっても大丈夫かな。

早く置いてもらって、結界をはってもらわないと、村が心配だしねー。


気が逸ったボクは祠に向けて走り始めた。

その瞬間、上から力強い羽音が聞こえてきた。


「うわー」


そして、何かの物体がボクを地面に叩きつけ、踏みつけてきたのだった。

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