【書籍化】三日月が新たくなるまで俺の土地!~マイナー武将「新田政盛」に転生したので野望MAXで生きていきます~

篠崎 冬馬

Prologue

第1話 建武元年(西暦一三三四年)

 昨日から雪が降っている。霜月(旧歴一一月)の津軽は寒い。兵たちの疲労も溜まっている。今年の戦はここまでであろう。


「殿、北条の残党はほぼ片付きました。これで津軽は統一したも同然。速やかに将軍府にお戻りになられた方が宜しかろうと存じます」


「そうだな。だがその前に、外ヶ浜を見ておきたい。この日ノ本の果てをな」


 一見すると女性にも見える美貌の若者が、屈託のない笑みを浮かべてそう返した。齢一七歳で正三位の地位にあり、津軽平定で従二位鎮守府大将軍に就くことがほぼ確定している。家臣たちの誰もが、この若者に心服していた。

 軍を率いて津軽の東、外ヶ浜と呼ばれる地に向かう。北には水平線が広がっている。


「ここが外ヶ浜か……」


「御意。雄朝津間稚子宿禰天皇おあさつまわくこのすくねのすめらみことの頃、善知鳥うとう中納言安方やすかた公が此の地に流されて以来、ここは善知鳥と呼ばれておりまする。この海の向こうは日ノ本の外。糠部ぬかのぶよりさらに北にして、宇曽利うそりと呼ばれる地があるとか……」


「だがその地にも、人はいるのであろう?」


 そう問われた家臣は黙って一礼した。主君は宮中において微妙な立場にある。その才を高く評価される一方で、あまりに秀で過ぎた才により、他者には理解されない点もあるのだ。その一つが人に対する考え方である。

 主君にとっては公家も武士も名もなき民も、さらには蝦夷の民すら等しく「人」なのである。鎌倉から一五〇年、武士が政事を行うようになった。だが流浪する民は減るどころか増えている。そこかしこに野盗が横行する中、力のある武士が守る領内のみが、僅かに安寧の土地となっていた。主君はそれを大いに憂慮されている。だがどうすれば良いのか、答えがない。


「いつの日か、誰かが立ち上がるであろうな。人は誰もが懸命に生きている。このままでは生きられぬとなれば、ましてそれが一部の者たちによるものであれば、それを変えようと団結し、蜂起し、今の体制を打ち倒そうとするだろう。そしてそうした動きは往々にして、都のような権力が集まる場所ではなく、こうした外れから起きるのだ。かつての将門公のようにな」


「殿、それは……」


 独立勢力として蜂起し、日ノ本を変える。日ノ本開闢から二〇〇〇年の歴史において、それを成し遂げた者はいない。平将門ですら失敗した。だがこの若き天才であれば……


「私では無理だ。私には、新たな日ノ本の姿が見えぬ。それではただ、混乱が起きるだけであろう。だが遠き未来に誰かが立ち、今とはまったく違う日ノ本の姿を描き、それを成すやもしれぬ……」


 若き天才、北畠陸奥守顕家あきいえは、そう呟いて外ヶ浜から海を眺めた。その眼差しは少し寂しげで、そして遠い未来を見通しているかのようであった。

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