第25話 そして

部屋の中でぼんやりとしていたら母さんが入ってきた。

突如抱きしめられるような感覚が全身に降りかかる。

視界が落とされる。

耳元で劈くような悲鳴。

鼓膜が破れると思った。

何が起こったのかわからず茫然としていたら、悲鳴よりももっと大きな音が聞こえた。

目を閉じる。

同時に私がいた部屋が吹きとばされて、抱擁されたまま転がされた。

目を開けると母さんが砂の色を被って眠っていた。

……そして私は、

暗転した。




「……コン、ファルコン?」


ん……。


「ファルコン、おーいってば」


「……あ、れ、私……」

「はー、やっと目醒ました。また無理してきちゃって」


目をゆっくり開けるとそこは見慣れた医院の一室で、私は白い寝具の上で横たわっていた。


「……また」


「そうだよ、またコルボーが連れ帰ってきたんだよ」


ささりと起き上がる。

横でイロンデルが慈しむような表情をしていた。


「……前にコルボーにちゃんと説明してくれって言ったから、教えてくれたよ。何があったのか」

「……」

「剣、使ったんだってね」

「……剣は今どこに?」

「私の部屋に置いてるよ。色々と酷い有様だし、後で綺麗にして返すさ」

「いや、私の剣だから、私が洗うから、返して」

「ダメ」

「……なんで」

「私が洗いたい気分だからだよ」


頑なにイロンデルは意思を曲げようとしなかった。


「でも」


それでも返してほしい、と言おうとすると喉が詰まったような感覚に陥った。

脳裏に蘇る、足から血を流す少女の姿。


「うっ……」


一瞬その画が頭に浮かんだだけで嗚咽してしまう。


「……とにかく安静にしてなよ」


イロンデルがその場からいなくなった。

私は……大人しく眠っていることにした。

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