第26話 オタク会議……三人の転生者
「シモンズ男爵令息、ちょっと話があるんですが」
「えーと……何ちゃんだっけ?そうそうビビアンちゃんか」
軽いノリのスチュワートに、ビビアンはイラッとさせられる。しかし、確かに女癖の悪い超軽男ではあるが、さっきニナリアにせまるようなことを言ったのは、リリベラとは何もないということをアピールしようとしてのスチュワートなりのフォローだろうし、根は悪い奴じゃない筈だと、気持ちを落ち着ける。
「単刀直入に聞きます。あなた、転生者ですよね」
「え?なんで?もしかしてビビアンちゃんも?」
「『も』ということはやっぱり……。ちょっと、人が来ないところで話しましょうか」
「もしかして、誘われちゃってたりする?俺はいつでもOKよ」
ビビアンがギロリと睨むと、スチュワートは「ジョークだって」とヒラヒラと手を振る。
「人が来ないところって、外にでも出るのか?」
「そうですね、今日は外部からも人が来ていますし、学内で人目のないところはないでしょうか?」
「ああ、それなら任せてよ。人気のないところならリサーチ済みだから」
ビビアンは、あえて「なんの為に?」とは聞かなかった。
スチュワートに先導されてついた場所は……生徒会準備室だった。
「ここ……」
生徒会室の横についた準備室は、今までの生徒会の資料などが置いてある備品室のような場所で、しかも生徒会室は完全防音になっている性質上、この準備室も完全防音になっていた。また、文化祭で使われている教室からは離れている為、一般客もこの区画には入ってこない。
「俺おすすめの逢引場所。で、ビビアンちゃんは俺と同じ転生者として、ランディ君は?てっきりリリベラちゃんの王子様かと思いきや、ビビアンちゃんが相手だった?」
「ランドルフ様は同士なだけです」
「つまりは……転生者?」
スチュワートは、棚に寄りかかり腕組みをして言う。エロゲーの主人公だけあって、無駄に色気がある。
「ああ」
「マジかぁ。って、ここに転生者三人揃ってるわけ?リリベラちゃんは?リリベラちゃんは転生者じゃないの?そこテッパンでしょ」
「お嬢様は転生者ではありません。ただし、この世界が『インコウ』の世界だとは伝えてあります」
「へえ、知ってんだ。なに、二人共『インコウ』プレイヤー?俺はかなりやり込んだぜ。全シーズンコンプリ」
スチュワートは自慢気に言っているが、『イングリッド王立学園〜貴族令嬢を攻略せよ!』は立派なエロゲーだ。ただのスケベヤローであることを、胸を張って自慢しているのだが、全く恥ずかしくなさそうだ。
「私は第一シーズンだけ、ランドルフ様は第二シーズンの……」
「第二でも、リリベラのはベストエンディングになるまで攻略したが、リリベラ以外の攻略対象は一巡流したくらいだ。第一は趣味に合わなかったからやっていない」
ランドルフがビビアンの言葉に被せるように言った。
「リリベラちゃん以外ねぇ。リリベラちゃんのは何回も見たんだ。実はムッツリだね、ランディ君」
「うるさい!おまえみたいに誰彼かまわず節操のない奴に言われたくない」
ランディは扉の近くに立ち、廊下の様子を確認しつつ、ムッツリとした口元を隠さない。
「アハハ、なるほどね。『インラン』のランドルフに似た性格だから、君が彼に転生したのかな」
「ランドルフ様はモブもモブですよね?第一では名前くらいしか出てきませんでしたよ?」
「ああ。第二でも残念ながら同じくだな。リリベラとからむ場面もなかった」
「第三シーズンじゃ、主人公の一人だぜ」
「「第三シーズン?!」」
ビビアンとランドルフの声がハモる。確かに人気のあるエロゲーではあったが、同じ舞台設定で三作は飽きられるんじゃないだろうか?
スチュワートの話だと、第三シーズンでは、男主人公三人のうちから一人を選んでゲームを進めていくらしい。その男主人公は、スチュワート、クリフォード、ランドルフの三人で、各自攻略対象も攻略内容も異なるらしい。スチュワートは定番のハーレムルート。クリフォードは数いる女子の中から妃候補を見つけて成長させる育成ルート。ランドルフはリリベラのみを攻略する単一攻略ルート。
そして、誰を選んだとしても、攻略失敗した時にのみ、四番目の男主人公が現れて、このゲームはリスタートされるらしい。
四番目の男主人公とは、三年の時に編入してくる隣国の王太子だとか。
つまり、二年の春までに攻略が成功すれば、最短のエンディングが迎えられ、しかもそのムービーはモザイク無しだとか。
「モザイク無し?!きさま、リリベラのモザイクなしを見たのか!」
「ちょっとランディ君、落ち着いてよ。ゲームだし、二次元だし」
ランドルフは拘束魔法でスチュワートを締め上げる。
「ゲームだろうが二次元だろうが許せるか!おまえの記憶を弄って、その記憶を消してやる!全部忘れることになるだろうがな」
「ランドルフ様、精神操作の魔法は禁忌ですよ」
「知ったことか!」
「待った、待った!最短エンディングは面白くないから、わざと最後外して隠し主人公ルート選ぶのが、『インラン』通なんだよ。だから、リリベラちゃんのモザイク無しなんか、一回くらいしか……」
「死ね、カス」
「嘘嘘嘘!俺はモザイクを薄目で見ることに命をかける男だから、生は逆にロマンがなくて嫌なんだよ。前世男のビビアンちゃんならわかるだろ?」
拘束魔法で動けないから、スチュワートは視線だけでビビアンに助けを求める。
「だ・か・ら!『インラン』好きが男だけってなんで決めつけるかな。私の前世も女ですからね」
「マジで?ヤバイ、いやらしい女の子とか、最高じゃね?」
「ランドルフ様……やっちゃってください」
「ごめん!ごめんなさい!失言でした。リリベラちゃんとのイベントは全力で回避しますから許してください!」
「本当だな?!」
「はい!」
ランドルフは、スチュワートを拘束していた魔法を解いた。スチュワートは手足をさすりながら、口を尖らせてブツブツ文句を言う。
「全く、わざとリリベラちゃんを攻略しないであげたんだから、感謝して欲しいくらいだよ。しかも、ドエロの選択肢じゃなくて、微エロを選んであげたのに」
「じゃあ、出会いイベントから攻略失敗を引き当てたのは、わざとなんですか?なんてもったいない」
プレイヤー目線だろうか?ビビアンはやや食い気味で言った。
「最初はさ、どのシーズンかわかんなかったけど、第二だけは避けたかったんだよ。だから、第二の攻略対象者だけは、全員スルーするって決めてたんだよな」
「……その理由を想像できる気もしますが、一応聞きます。何で第二シーズンは駄目なんですか」
第二シーズンのリリベラ推しのランドルフからしたら、リリベラを攻略されるのは許せないが、第二を否定されるのも許せない。
リリベラはうんざりと、ランドルフはムッとしてスチュワートに注目する。
「だって、第二は浮気厳禁なんだぜ。第一だって最初はいいけど、結局はリリベラちゃん一人を選ばなきゃならないだろ。なら断然、第三のハーレムエンドを狙うだろ。男ならさ」
「クズだな」
「クズですね」
ランドルフとビビアンは、スチュワートが転生者だと知ると共に、『イングリッド王立学園〜貴族令嬢を攻略せよ!』が第三シーズンまであるという情報を仕入れることになった。
しかし、それでもこの世界がどのシーズンなのかは分からず仕舞いだった。何せ、第三シーズンのイベントは第一、第二シーズンの使い回しだということだったから。
第三シーズンは「クソゲー」と言われ、第一、第二シーズン信者からはボロクソに言われて、逆にそれでバズったというから、制作会社の戦略だったのか、ただ手を抜いた結果だったのかはわからないが。
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