第5話 ランドルフは攻略中(ランドルフ サイド)

 扉を三回ノックすると、中から「どうぞ」入室を許可する声がした。扉を開けると、リリベラはベッドに横になり、何かを真剣に見ているようだった。

 シルクの布地のスリップドレスを着ていて、その柔らかい布地は横になっているリリベラの身体のラインを丸々拾っていた。しかも、スカート部分はまくれ上がり、太腿の際どいところまで見えてしまっている。


(僕の理性を試しているのか?!)


 あまりに魅力的なその姿に、ランドルフは声をかけることを忘れて、ただただガン見した。努力する天才のランドルフといえど、血気盛んな十代の男子である。こんなの、見れるならば見る一択ではないか。


「ビビ?」


 リリベラが上半身を起こして、ランドルフの方を振り返った。その際に、スリップドレスの肩紐が落ち、胸がギリギリラインまで見えてしまう。


「ランディ!!」


 スリップドレスを、ずらして下ろしたい衝動を抑え、ガウンを片手に近寄り、リリベラにガウンを羽織らせた。

 ただガウンを羽織っただけのリリベラは、見える肌面積が減ったというのにさらに扇情的な出で立ちになってしまう。


 寄せても上げてもいないにくっきりとした胸の谷間は上からしっかり覗けるし、部屋にいてくつろいでいるからか、ブラジャーなどはつけていないことも丸分かりだ。どこを見て……などとはランドルフの名誉の為にも言わないが、髪の毛のせいで視線が分かり辛いせいで、かなりガン見してもバレない。


「どうして……」


 口をポカンと開けてランドルフを見上げる顔は、キスのおねだり顔のようで、ランドルフはついフラフラと引き寄せられそうになって、最大限の忍耐力を総動員してグッと耐え、リリベラの横に座っただけに留めた。


 しかし、触れたい欲求は耐え難く、熱を測るふりをして、リリベラの額に手を当てる。


「午後、授業を休んで保健室へ行ったと聞いたから」

「あ……、別にたいしたことじゃないの。少し太腿を擦りむいてしまっただけで、もう痛くもなんともないですし」

「太腿?」


 ランドルフの視線が太腿に動き、その顔の動きから、リリベラの太腿に視線が移ったことを気付かれたのか、リリベラは慌ててガウンに腕を通して、きっちりとウエスト部分で紐を結んでしまう。


「ホホホ、失礼いたしました。でもこれはスリップドレスと言って、下着に見えるかもしれませんが、下着ではないんです。部屋着……、そう部屋着なんです」


 下着でも寝巻きでもない部屋着。ならば、もっと見ても問題はない筈だ!……努力する天才は、ただいま煩悩にまみれていた。


「そう。じゃあ別にガウンはいらなかったかな」

「いえ、多少肌寒かったからこれで大丈夫ですわ」


 ランドルフの手は、フラフラとリリベラのガウンの紐に伸ばされる。


「そう?さっきの格好もリリベラによく似合っていたよ。部屋着ならば見てもかまわないんだよね?」


 ここで紐をひいてしまうとになってしまうから、ランドルフは心の中で大きなため息をついて諦める。


「でも、寒いなら着ていたほうがいいか。で、なんで太腿に傷なんかできたんだ?」

「ちょっと、尻もちを……」

「尻もちということはお尻は平気?手は?手はつかなかった?」

「手をつく暇がなくて。お尻は……確認してないからなんとも。でも、痛くありませんわ」

「青痣になっているかもしれないよ。確認してあげようか?」


 リリベラは真っ赤になって、両手を横に振る。


「いえ!青痣になっていたら、そんなみっともないお尻をランディに晒せません」


 リリベラの生尻を想像し、ランドルフは前世で見たご褒美動画を思い出した。あの時は全てが平面だったが、今は3Dで目の前に……。いや、これは現実だと、ランドルフは生まれ変わった幸せを噛み締めた。


「ふーん、みっともなくなかったら見せてくれるのか」


 思わず心の声が漏れたランドルフに、リリベラが可愛らしい顔を向けるてくる。この可愛らしい表情は自分しか知らない……、そう思うと滾るものが溢れそうになる。


「え?何か言いまして?」

「いや、大したことじゃなくて良かったと思って。クリフが大袈裟に言うものだから、心配になって。こんな時間に押しかけてごめんな」


 ランドルフがリリベラの頭を撫でて言うと、リリベラは嬉しくて満面の笑みを浮かべて手にすり寄ってくる。


「いえ!今日は二回もランディに会えて嬉しかったですわ」


 これ以上一緒にいると、確実にしそうだったので、ランドルフは泣く泣く学生寮に戻ることにした。


 ★★★


 ランドルフ・アーガイルが第三王子であるクリフォードと、その婚約者候補筆頭とされているリリベラと初めて会ったのは、八歳の時の王妃の茶会だった。


 一歳で大人と普通に会話をし、二歳ではすでに文章の読み書きに計算までできたランドルフは、すぐに神童と呼ばれるようになった。成長すると共にただの人になることもなく、さらに魔力量が王族以上(測定不能)あることも相まって、子爵家次男でありながら八歳の時に第三王子の側近になることが決まった。


 そんなランドルフとクリフォードの初の顔合わせとなった茶会で、リリベラを初めて見たランドルフは、全てを思い出したのだ。


 前世、今よりも優れた文明の世界で数学教師として生活していたことを。全ての記憶が戻った時、あまりの情報量の多さに目眩がし、よろけかけたランドルフに手を差し出してくれたのが同じく八歳のリリベラだた。


(燃えるような赤い髪に、宝石のようにキラキラ光るエメラルドグリーンの瞳。

 リリベラ・リーチェ公爵令嬢、『イングリッド王立学園〜貴族令嬢を攻略せよ! 第二シーズン』の攻略対象じゃないかーッ!!!)


 ランドルフは違う意味で卒倒しそうになった。


 リリベラが目の前にいて、動いている。あの豊満なバストは今はツルンペタンだが、八歳なのだからこれが普通だ。逆に、これがあれに成長するのかと思うと感慨深い……ウウンッ!


『イングリッド王立学園〜貴族令嬢を攻略せよ!』略して、インラン。


 第一シーズンは、趣味に合わなかったから手ものびなかった。性格的に、不倫やネトラレ、ハーレム物は嫌悪感しか覚えず、沢山の女子と関係をもたなければならない第一シーズンは、第二シーズンをやる上で内容だけはオタク仲間に聞いたが、興味もわかなかったからだ。


 はまったのは第二シーズン。七人の攻略対象全ては一応クリアしたが、特に推していたのは、第一シーズンの最終攻略対象でもあったリリベラ・リーチェ公爵令嬢で、何度も何度もやり返した。彼女のエンディングムービーは至高至極至福の逸品だった。


 第二シーズンが第一シーズンと違うところは、並み居るセクシー女子学生のトラップ(エロゲーム)をかいくぐり、攻略対象を見つけ出して、いかに攻略対象者の好感度を上げられるかで、見れるエンディングが違うということだった。


 若干八歳のランドルフは、推しの攻略に全力を傾けることにした。

 もちろん、本当の攻略が始まるのは学園に入ってからで、しかも悔しいことにランドルフは主人公ではない。男キャラなど、ゲーム内ではモブ中のモブだ。

 だから、学園に入学するまでに、リリベラの好感度をできる限り上げておかないといけなかったし、現実問題として身分の差という高い障害を木っ端微塵に打ち砕かなければならなかった。


 こうして、努力する天才ランドルフが出来上がり、小さい時からリリベラの好感度を稼ぎまくった結果、リリベラの淡い初恋をゲットすることもでき、ゲーム開始となるイングリッド王立学園に入学する時期になった。


 ランドルフの誤算は、リーチェ公爵に認められる為とはいえ、リリベラと同級生として過ごせないということだった。


 この世界は『インラン』の世界で間違いはないようだが、第?シーズンであるかはわからない。

 ランドルフが知っているのは第二シーズンまでだが、もしかしたら他のシーズンも出ている可能性がある。そんな噂を聞いた記憶もあるからだ。


 主人公であるスチュワート・シモンズ男爵令息は、どうやら入学した初日から女子学生を口説き、いかがわしいことにはげんでいる様子。

 ランドルフの知る第二シーズンならば、その段階でゲームオーバーだ。しかし、第一シーズンならばそれが正解となってしまう。


 ちなみに、今日学園であったジュースを飲ませてくれるシチュエーションは、第二シーズンの好感度上げゲームにある。また、スリップドレスのご褒美映像も、好感度が上がった後にくるゲームの一つだった。本来は主役に起こる筈のゲームだが。


 第一と第二で同じゲームを使い回すこともないだろうから、第二シーズンで間違いない……とは思うが、ランドルフはまだ確証には至っていなかった。

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