第41話 煮えきらない「市街戦」

 リダストーンでの初戦果を見せつけながら行った、あの宣誓は、期待した通りの効果を発揮してくれた。

 あの日の翌日、試しにひとりで街を歩いてみたのだけど、そんなに・・・・石を投げられなかったから。


 特にこちらからあおるようなことはしなかったけど、投げられる場面もいくらかはあった。

 けど、初日ほどの勢いというものはなくて。ごく少数の人物が、「なんだか正義に燃えている」ように見える一方で、周囲の目は、戸惑いながらも冷めたところがある――

 というのが、客観的事実・・・・・だと思う。


 それでも、向こうには向こうなりの戦術ってものがあるみたいで。

 私自身、試してやるつもりで、人通りが少ない方へ足を運んでみると、実際にその通りになった。最初から火が付いてる感じの人物が数人がかり、私に罵声と石を飛ばしてきて……

 それを見て周囲の人たちが、様子をうかがいながら、遠慮がちに加勢するって感じで。


 わかりやすいな、って思った。


 その場その場での「攻撃者」の比率を高めれば、普通の人だって乗せられやすくなる。

 だから、現場・・の扇動者同士である程度固まって頭数を確保し、局所的に多数派マジョリティを演出しようって考えなのだと思う。


 でも、私の宣言に比べてもなお、これは単なる付け焼刃のように感じる。

 よほど組織的な動員がなければ多数派になりえない大広場とかでは、一度も石を投げられることはなくて。

 お尋ね者という本来の立場を踏まえれば、私こそが人目を避けなきゃいけないはず。それなのに、実際には私を責める仕事・・の人たちの方が、公共の場では及び腰で。

 これでは立場が逆転したようなものだった。


 一方で、人通りが少ないところへと「迷い込んで」攻撃をしてもらうというのは、意味があると思う。

 変わった状況の中でも動かされる末端の人たちに、彼らなりの工夫の手応えと満足と――

 それと、きちんと仕事したっていう実績を与えてやれば、仕事仲間同士の結託と保身もあって、上役への報告もきっとそれなり・・・・のものになるだろうから。


 もちろん、何かしら大きな動きがあれば、街の状況はいかようにも傾き得る。

 だからこそ、私はお仕事に勤しんでいく必要があった。

 まだまだヤル気ある人たちから、投石という形で「頼まれ」ちゃったことだし。



 ティアちゃんのお仕事2回目は、前回とほとんど同じような感じだった。衛兵隊で調べがついてる連中の根城に踏み込んで――

 ティアちゃんが暴れ回って、賊たちを片っ端から捕らえていって、と。


 目に見えて痛々しいケガ人がひとりってのも、前回と同じだった。


 さすがに、俺たちとしてはいい気分じゃないけど……ティアちゃんの言い分もよくわかる。

 負傷は仕事への貢献の証、勲章なんだと。こういう仕事で傷を負うのは、別に何でもない。

 それよりもずっとつらいのは、状況に流される形で石や罵声を飛ばす羽目になっている人たちと向き合うことだ、と。

 本当は乗り気ではない人たちに、思いとどまらせるための材料になるのなら……こういう負傷にだって意味はある――


 なんて言われると、こちらとしては認めざるを得ない。

 そのため・・・・の仕事でもあるわけだし。


 実のところ、ティアちゃんの目論見は大正解でもあった。

 お仕事に出て、大広場で戦果を見せびらかして――そういう流れを繰り返していくほど、石を投げられる頻度が落ちていったからだ。

 俺たちがそばにいるときはもちろんのこと、街をぶらついてる時に偶然見かけた時も、大差はなかった。

 本人によれば、まだまだ投げてもらえる・・・・・・・スポットはあるらしいけど。


「ただ、『投げさせられてる』って感づいてる人もいるでしょうし……私としては、まだ足踏み・・・していてもらいたいですが」


 とのことで。

……どこでそういう・・・・の覚えたんだろって、ちょっと空恐ろしく感じるときはある。


 実際、「次の動き」らしいものが出るのに、あまり時間はかからなかった。街の状況を変えるためか、街頭でティアちゃんの手配書を配るヤツを見かけるように。

 しっかし、まぁ……なんだ。ゆったりした服に、目深にかぶったフードのせいで、人相や体つきが全然わからない。

 配布を守るためってことなんだろうけど、当のお尋ね者はというと、全然隠れなくて。コッソリするのはせいぜいシャロンの店への出入りぐらいだ。

 そんなティアちゃんと比べると、向こう側の下っ端の連中は……

 なんていうか、やりづらそうで、かわいそうですらあった。


 こうなってくると、衛兵隊はある意味かなり運が良かったな、と。

 人手が足りないってことで、この捕り物から外されてたんだろうけど。

 仮に人手が足りてるなら、衛兵隊としてどう動くか。

――住民に石を投げさせるようなやり口を認められるかどうか。

 その辺、お役所や教会に信を問われるところだったわけだし。


 実際のところ、馴染みの連中の様子を見る限り、そういう要請にはきっと抵抗したんじゃないかとは思う。

 ともあれ……ティアちゃんなりに思惑のあるお仕事のおかげで、衛兵隊は助かってるんじゃないかとは思う。


 そんなこと、隊員としては中々公言できやしねーだろうけど。

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